協力するに値しない

次の日から授業が始まった。
内容は黒霧から教えてもらった範囲の復習がメイン。
特に苦労することもなく昼休みを迎え、俺はすぐに教室を出た。
学校に来る前に買っておいたパックのジュースを飲みながら、校内を歩く。

「やっぱり広いな」

センサーとか監視カメラも多いし。
校舎内に侵入するのは難しそうだな。
外にある校舎案内図を見つめ、施設の多さにも驚いた。
これだけ施設があるなら、一クラスだけ隔離し襲う方が効率的だろう。
オールマイトがいるかはわからないけど、生徒が襲われれば 彼はきっと来る。
ヒーローだから。
だが、このセキュリティをどう突破するか。

電気系統を一時的に無効化するのが1番手っ取り早いかな。
システム管理は校舎で一纏めだろうか。
もしそうなら、侵入するのは厳しいから どこかの電源からハッキングする必要があるな。
そーすると、俺のクラスが隔離される時が狙い目で…
当日まで授業内容がわからないのが 困るところだな。
きっと弔くんのことだから、俺以外にも情報ルートは作ってるだろうし。
そこと照合できればいいか。

「なにやってんだ」

後ろから聞こえた声。
そこにいたのは イレイザーヘッドだった。

「お散歩です」

いつの間にかなくなっていたのか ストローがズズッと音をたてる。

「教室にいても退屈なので」
「午後から実技がある。食事はしっかりとっておけ」
「…はい。ありがとうございます」

個性は抹消。
俺の無効化と少し似ているが、彼の場合は目を合わせただけで発動できる。
疑われてしまえば内通者としての役目は果たせない。
今は大人しく帰るのが正解だろう。

「購買ってあります?学食があるのは知ってるんですけど」
「学食の向かい側にある」
「ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げて その場所へと向かう。
とりあえず案内図はピアスに仕込まれたカメラで撮影できているだろうし。
帰ってから 確認しよう。





午後の授業。
教室に入ってきたのはオールマイトだった。
こんな至近距離に殺す相手がいるのに、手を出せないなんて。
生殺しにも程があるな。
ぱっと見は衰えてる感はないけど、先生の言うことに嘘があるとも思わないし。

ヒーローコスチュームとやらに着替えて会場を移動。
やはり、クラス単位で分かれるから 狙い目はここだろうな。
施設の入り口には先生のカードを通す機械があったから、あそこから全部無効化にはできるはず。
その隙に侵入してもらって、戦闘の間に 壊せばいいだろう。

「霧矢?どした?」

いつの間にか隣にいた瀬呂が首を傾げる。
きょろきょろと周りを見ていたのをやめて、なんでもないと答えた。
ここは人の目がありすぎる。
動きにくいったらありゃない。
人の目をどう潜り抜けるかも、問題だな。

これから行うのは 2vs2 の屋内戦。
ペアはくじ引きで、敵とヒーローに分かれて 制限時間内に建物内の核を奪うか 守りきるか という戦いらしい。
21名なので一人余りますが、と手を挙げて指摘した飯田にオールマイトはじゃあ、どこか1チームだけ2vs3にしよう と告げた。
くじ引きの結果、俺はDチーム。
飯田 爆豪という 初日から ぶつかった相手とのチームを組むことに。
そして、対戦相手は緑谷と確か麗日という名前の女の子だった。

割り当てられた役職は敵。
俺には御誂え向きな立場だった。

「3人は敵の思考をよく学ぶように!これはほぼ実戦!ケガを恐れず思いっきりな!度が過ぎたら中断するけど…」

オールマイトにそう言われて、建物の中に移動する。

「訓練とはいえ敵になるのは心苦しいな…これを守ればいいのか…」
「オイ、デクは個性があるんだな?」

爆豪は俺たちに背を向けながらそう、問いかける。

「あの怪力を見ただろう?どうやらリスクが大きいようだが…しかし君は緑谷くんにやけにつっかかるな」
「この俺を騙してたのか…!?クソナードが!!」

騙していた、という言葉を聞く限り 長年彼は無個性だったのか 個性を隠していたのか。
まぁどちらにしろ こんなに早く目の前で緑谷を見れるのなら悪くはない。

そろそろ5分が経つ。
ヒーロー組が潜入してくる頃だろう。
少し前に作戦という作戦も立てず 爆豪は飛び出していった。

「爆豪くんめ!勝手に飛び出してしまった…なんなのだ彼は!もう!!」

通信機で声をかけるもぷつりと音が切れる。

「いーよ、放っておいて」

俺はそう呟いて フロアに行くつかの錬成陣を書いていく。

「とりあえず、あの麗日って子。触れることで個性を発動させてたから この部屋にあるもの全部 別のところに運んでもらえる?」
「あ、あぁ。」

俺も弔くん達の元では好き勝手やらせてもらっている方だし、ハートイーターとしては感情に任せた殺人を繰り返してはいるけれど。
それでも周囲への警戒は決して絶やさないし、何も考えずに突っ込むことはしない。
チーム戦においても作戦も立てずに飛び出すような愚策はしないし、そんなことをすれば彼らを巻き添えにしてしまう。
敵 ヒーローに関係なく 自分の行動は仲間の未来に繋がる。
そんなこともわからず感情的に飛び出すのは甚だ理解ができなかった。

「これで一通り片付いたな」
「おそらく 麗日一人でここへ来る。 爆豪は緑谷と仲良く遊んでるだろうから」
「そ、そうだな…。君は意外と、真面目なのだな」

彼の言葉に俺は笑った。

「やるべきことはやるってだけ。必要がないことは絶対にしない」
「そ、そうか…」

だがしかし、敵になるとは難しいなと彼は一人でブツブツと話し始める。
根っからのヒーロー志望なんだろうな。
俺の嫌いなタイプだ。

「俺はぁ…至極悪いぞぉお」

核に隠れて麗日を待っている時、飯田のその独り言に誰かが笑った。
こういう場面で笑うなんて、如何なものなのか。
俺の位置はばれていないようだし、飯田がジリジリと距離を詰めていく。
あんなに悪役をやるのが下手なとこを見れば 彼には麗日を捕まえることは出来ないだろうし とりあえず気を引いてくれればいいや。
錬成陣に両手をつこうとした時、建物に大きな揺れ。

「何だ!!?爆豪くんか!?何をしているんだ彼は!」

その揺れに飯田が気を取られた隙に体を浮かせて核に触れようとした麗日を壁を錬成して防いだ。

「ぎゃん!」
「飯田、集中」
「す、すまない」

核の前に錬成した壁を消して、溜息をつく。

麗日は小さな声で通信機の向こうの緑谷と言葉を交わし、急に柱に抱きついた。
そして突然割れた地面。

「二人とも!ごめんね即興必殺彗星ホームラン!!」

折れた柱で破片を打った彼女に 内心舌打ちをしつつ 仕込んでいた核を囲む大きなもう一つの錬成陣に両手をついた。
柱のようなものが丸々核を覆い隠し、彼女が打ち込んだ破片を弾いていく。
嘘!?と目を丸くさせた彼女に一気に距離を詰め、柱に仕込んでいた錬成陣に触れ そのまま地面に押さえつけた。
そして、大きく開いた穴に飛び込み、倒れる緑谷の近くに降り立ち彼を拘束した。

『敵チーム WIN!』

建物内に流れた放送。
荒くなった呼吸と愕然とした表情をする爆豪に歩み寄り彼を見下ろす。

「初めての屈辱?」

笑いながら言った言葉に爆豪が俺の胸倉を掴んだ。

「テメェ、」
「勝手に飛び出して行ったんだからせめて、緑谷一人くらいちゃんと仕留めてよ。てかさ、屋内戦で大爆発とか何考えてんの?感情的になるのは構わないけど、頭使って戦ってくれない?使えないね」
「言い過ぎだよ、霧矢少年。戻るぞ爆豪少年。講評の時間だ」

倒れている緑谷の拘束を解いて、俺はさっさと建物を出た。
モニタールームに戻り行われた講評。
内容はあまり聞いてなかったが 概ね良好の飯田は攻撃に対する対応の遅れを指摘されていた。

「霧矢さんはほぼ申し分ない内容でしたが、もう少し協力して動いても良かったのではないかと思いますわ。爆豪さんが飛び出した際も何の行動もしていませんでしたし」
「爆豪に関して言えば協力するに値しないって判断しただけだよ」

シン、としたモニタールーム。
その空気を壊すように オールマイトは次の対戦を始めさせた。


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