殺すか殺されるか


俺たちのいた 丘の上から連なるような爆破。
新手か、と振り返ったスピナーに 俺は心喰が来たと伝えた。

「心喰!?なんでわかんだよ」
「…勘」
「はぁ!?」

勘としか言えない。
それでも、心喰が来たような気がするのだ。
あの爆破は 過去にも似たやつを見た事がある。
あんな威力ではなかったはずだが。

「心喰だって言うなら なんであんな無差別な攻撃すんだよ?!俺達巻き込まれてたぞ、下手したら」
「ブチ切れてんなぁ、ありゃ」

大きな戦闘音が聞こえた頃、丘の上から黒いローブをはためかせた人が 街に降りたった。

「やっぱ来てんじゃねぇか」

すぐに俺の元に来なかった。
ハートイーターの姿で俺の言いつけを守らず錬金術を使った。
それが彼がキレてると言う何よりもの証拠だろう。

「死柄木…お前大丈夫か?!」
「おまえは?待ってた方が良かったか?」
「この街に来なけりゃ通報されて大量のヒーローたちに追われてた。どっち選んでもピンチだったろーよ」

そう。
そうなんだ。
どっちにしろ、ピンチになることは間違いない。

「ハメやがって。見ろよ、スピナー。タワーが近いぜ。人も多くなってきた」

視界の先。
埋め尽くす人の姿。

「どんどん増えてねェかァ?!」

ピンチはそれだけじゃない。
多分、1番やばいのは心喰だ。
あの爆破が良い証拠。

どうすればいいだろうか、と回らない頭で考えながら邪魔は奴らと戦っていれば、トゥワイスが俺を攻撃から庇った。
しかも1人ではなく、数えきれないほどのトゥワイスが俺たちの元に駆けつけた。

「おいおいマジか。増えたのか!」
「これで少しは役に立つかな リーダー」
「すごいぜ、トゥワイス。ついでにタワーまでの道拓けるか?」

敵を薙ぎ払いながら進み、なんとか近付いてきたタワー。
あそこに義欄とボスがいると彼らは言った。

「騙してんのかもしれないが…。実際近づくにつれ敵が増えてる、タワーを守るように…。マキア用の駒はさておきボスはちゃあんと殺さねーとなァ」
「了解!リーダーおめーは俺に揺られて寝てろ」

トゥワイスに抱き上げられた体。
ふわふんとした浮遊感に疲労困憊の体は眠気に襲われる。
遠退く意識の中「もうトゥワイスだけでいいんじゃ」というスピナーの言葉が聞こえて それはやんわりと否定する。

「アイツは義欄を好きすぎる…人の心を弄びやがって…許せないぜ、解放軍。あぁ…そうだ、トゥワイス…お前らだれか心喰を、連れてきてくれ」
「いいのか、呼んで。キレてんだろ?」
「…だからだよ…」

宥めるのは後でいい。
今は彼の怒りさえも、使わねばならない。





「こんなもんか…」
「助かったのか!?」
「きっと、すぐに目を覚ます。右目は残念だけど、視力は戻らないかも」

ゆっくりと立ち上がり、腕を折られたトゥワイスの本体に歩み寄る。

「なぁ、リーダーは 心喰を捨ててなんかいない!いや、捨てられた!」
「どうだろうね」

彼の体を治しながら激しくなる戦闘音に耳を傾けていた。

「信じてないのか?なんで?あんなに、信じ合ってたはずはのに!!仲悪かったもんな!」
「何とでも、言うといいよ」
「え?」

彼の骨折を治し終えて、さて 行くかと 戦闘音の激しい街の中心のタワーを見つめる。

「弔くんの答え次第では、全員 殺す」
「は?」
「ヒミコちゃんのことは そのまま任せるね」

俺の居場所なんだ、奪わないでくれ!とトゥワイスが俺の肩を掴んだ。

「知ってるよ、俺の居場所でもある」
「なら、なんで…」
「だからこそだよ」

縋り付くトゥワイスの頬を義手で撫でて、口を緩めた。

「愛しているから、俺の手で終わらせるんだ。大丈夫だよ、みんなまとめて喰べてあげるから。俺の血肉となって死ぬまで一緒にいよう?」
「っ?!」
「心喰!!」

コピーのトゥワイスが駆け寄ってきて、「リーダーが呼んでる」と言った。
ここに来たこと、バレてるのか。

「いいよ、連れて行って」
「ついてこい!連れてかねぇよ!」
「ヒミコちゃんをよろしくね。何かあれば俺を作って、診てもらって」

トゥワイスの本体は恐ろしいものを見るような目で俺を見ながら、こくりと頷いた。
トゥワイスに連れられ、タワーに向かっている途中そのタワーが崩れた。
そして、地響き。
いや、違う 地響きのような…足音?

「ギガントマキア!!」
「ギガントマキア?」

視界に入った予想よりも大きなシルエット。
思えば何度か先生から聞いたことがあった。

「解放軍頑張れよ、アリとゾウじゃねェか!!」
「あれじゃ体力削れねェぞ。つーか、前よりデカくなってねぇか!?」

俺を先導するトゥワイス達がそう話す。

「あいつ死柄木の下に向かってる」

なるほど、あれと戦ってたのか。
どうしたわけか、ギガントマキアは弔くんを求めている。

「トゥワイス、もういいよ」
「え?」
「ここから先は1人で行ける。全員来てるんだろ?安全なところまで 逃げて」

1人であれを相手する気か、とトゥワイスは俺の腕を掴んだ。

「俺たち、あれと何ヶ月戦ってると思ってんだ!?あれに勝てるわけない!!」
「止めたいの?殺したいの?勝てるわけがないなんて、勝手なこと言わないでくれる?」
「っ、悪い…止めてほしい、アイツを…」

わかった、と頷いて 両手を合わせる。

「じゃあ行ってくるね。気をつけて 逃げるんだよ」
「あ、おい!?待て!!」

伸ばした地面で大きな足音を立てて進むギガントマキアに近づく。
無策だけど、どうしようかな。

「とりあえず、拘束するか」

俺の言葉に答えるように 赤い石が胸元で揺れた。
ちょうどいい力試しになるだろう。





「ハハッハハハ ぶっっ壊れろ」

自分を中心に広がっていく崩壊。
眠たい頭が妙に冴えていた。
あぁ、楽しいな。
自然と笑みがこぼれた。

更地となり、砂煙が舞うタワーがあった場所。
ゆっくりと煙がはけ、脚を切り離したリ・デストロの姿。

「脚 地面に触れちまったか。全身壊れる前に切り離したんだな。…なァ何で戦ってんだっけ?」

返事はない。
その代わり荒い呼吸だけ聞こえる。

「お前が喧嘩売ったからだよなァ」
「リ・デストロォ!!」

駆け付けた選挙カーの近く ギガントマキアの肩に心喰を見つけた。
縫い付けられたギガントマキアの体。
恐らく無効化と錬金術の合わせ技ってところだろう。
仮面越しなのに、俺を見るその目が冷たい気がした。

「みなさん!!最高指導者を救うのです!」

選挙カーから聞こえた声にリ・デストロは右手を挙げ人差し指を立てた。

「トランペットこれ以上は…無駄な死だ」

脚のなくなった体を引きずり、彼はこちらを向く。

「彼らは皆私…いやデストロの意志に賛同し殉ずる覚悟を培ってきた者たち。君の言う通り喧嘩を売って負けた。殺るなら殺れ。私もまたデストロの意志に殉ずる覚悟」

目の前の男は両手をついて頭を下げた。

「異能解放軍はお前の後についていく」
「………あ、お前社長だから金あるよな!」

呆けた目の前の男から返事はなかった。
その代わり、弔くんと 久しく聞いていなかった彼の声。
拘束していたギガントマキアの肩から飛び降りて、更地になったこの場所をローブをはためかせながら歩いてきた。

「…心喰」
「久しぶりだね、とっても」

皮肉たっぷりに彼は言って、多分笑った。

「…随分と、好き勝手やったらしいな」
「それを咎められる謂れはないと思うけど?」
「俺の命令なしに、何故勝手に動いた。待てもできないのか?」

何馬鹿なこと言ってるの?と彼はゆるりと首を傾げる。

「普通に考えてよ。待てと言われずに待つ犬がどこにいる?俺を牙の抜かれた飼い犬か何かだと思ってたの?」

思っちゃいないさ。
お前はただ俺に力を貸していただけ。
俺が差し出した手に恩を感じて、その恩返しをただしていただけ。
そこには確かに愛情はあっただろうな。
俺に対しても、敵連合に対しても。
だからきっと、俺が一言連絡ができなくなると伝えていればこうはならなかったんだろう。

「…はっ、たしかにそうだな。じゃあ言い方を変えようか。俺を信じることは出来なかったのか?」
「うん、そうだね」
「即答かよ。悲しいなァ」

弔くんもそっち側だからね、と彼は言った。
やはりそうなのだ。
結局、彼は俺に中にある個性さえも 憎いんだ。

「まぁ、こうなったら仕方ないか。どうする?お前はどうしたい?」
「俺を殺すか、俺に殺されるか。その二択」
「俺を殺す?それならここにいる云万人の兵を殺さにゃいけねぇよ?」

うん、殺すよ。
彼はそう言って 笑うように口のチャックを開いた。

「ギガントマキアも弔くんを見て動きを止めちゃったから、まだ力試しの途中なんだよね」

彼の胸に輝く心臓のような赤さの石。
それが嫌に輝いた気がした。
彼の手が地面に触れたその瞬間 俺の背後から爆発音が重なった。
やっぱり、錬成陣なしに 爆破が移動してる。
何をした?個性が変わったのか?

聞こえる悲鳴ににんまりと恍惚とした笑みを彼は浮かべた。
楽しんでるな、と妙に冷静な頭は考える。
厄介なのは錬金術だけじゃない。
俺とは1番相性の悪いのは無効化。
ただまぁ 戦って止めるほかないだろう。

「…仕方ないな。やるか」
「うん、やろうよ。弔くん」




戻る

TOP