超常解放戦線

泥花市街戦再臨祭から1週間。
流れてくるニュースのデタラメさに笑ってしまうが、それだけの情報操作が可能な人たちだということだろう。

「…それにしても、」

凄いことになっているな。
地下神殿のようなところに集まった沢山の人。
これが皆個性持ちだと考えたら これよりも強力な賢者の石が出来るんじゃないか?
まぁ…そんなことしたら怒られるか。

「解放戦士諸君!!リ・デストロである!これより異能解放軍は生まれ変わる!!」

大きな声が鼓膜を揺らす。

「なんだ、間に合ったのか」

俺に気づいた荼毘が振り返り、こちらに歩み寄る。

「ギリギリね」
「相変わらず楽しそうだな、お友達ごっこは」
「お陰様で」

皮肉に笑ってやれば 彼はいつものことだとでも思ったのか ふっと笑って俺の隣に立った。

「ニュースは見たか?ジーニストの」
「あぁ、行方不明の?」
「ホークスが遺体を持ってきたよ」

視線を合わさず 本物?と尋ねれば どうだろうなと一言。
信頼に足る人物、とまでは彼の中でもいっていないんだろう。

「…俺はこれ以上は探れないだろうな」
「だから俺に?」
「お前、というよりは 霧矢心に」

やっと彼の視線がこちらに向けられた。

「…ヒーローに1番近づけるのは お前だけだと思ってる。もし、スパイなら…何かしらサインを送ってるはずなんだよ」
「だろうね。その先は警察か、公安か…将又他のヒーローか…」

その辺りから探りを入れなくちゃいけないってことだろう。
ホークスって誰かとチームアップとか、してたっけ?
あんまりそんなイメージないけどな。

「…了解。とりあえず、出来る限りこっちでも動いてみる」
「また何かわかれば、知らせる」
「うん。こっちも報告はする」

あ、いこいことヒミコちゃんが歩き出し、それの後を追う。

「考案は私 リ・デストロと連合スピナー!さァ!その名を!死柄木弔!」
「超常解放戦線」
「敵の名を排し、異能の枠組みを更に広く解釈できるものとした。又、壇上の9名を行動隊長に任命し傾向別に部隊編成を行う」

9名?と隣に立つ荼毘を見れば お前以外だよと彼は言う。

「ハートイーターは 俺の直属として 補佐に回る。まァ…名前なんてこれと同じ 飾りだ。好きにやろう」

雄叫びのような歓声が地下神殿を揺らした。

「お前は単体で自由に動けた方がいいだろうって 俺たちの中でなったんだ。雄英のことがバレるリスクも減らしたいだろ」
「…まぁ、たしかに」

それだけじゃないだろうけどな、と荼毘は小さな声で言った。
何が?と聞いても なんでもないとそっぽを向かれ、それ以上は答えてはくれなかった。





「おつかれさまでございました。何かお飲み物でも」

煙が出るほど手を擦るリ・デストロに「失せろ」と言えば凄いスピードで消えていった。
杖をつきながら歩こうとしたが体がつんのめる。
倒れそうになる俺の体を抱きとめた心喰が無理しないで、と穏やかな声で言った。

「…悪い」
「生きてるのが奇跡レベルのダメージだったからな…」
「部屋まで肩貸すよ」

心喰に体を預け 歩き出そうとした時聞こえた声。

「仰々しい名前じゃのう。まァ敵連合なんちうチープな名よりはいいか」
「!マキアは従った。あんたの言ってた最低限の格はついたと思うぜ」
「氏子ドクターか!?」

ドクター?と心喰は首を傾げる。
そういえば、マキアとの戦闘の理由は説明していなかったか。

「うん。記憶も戻り個性も含め本来のお前に戻った。約束通り力を授けよう。お前がそれを望むなら。…だが、その前に少々やってほしいことがあっての。あるものを運んでほしい」

それを了承すれば氏子との通話が切れた。
体を支えながら俺を見ていた心喰に部屋に戻ると伝えれば、ゆっくりと歩き出した。

「よかったの?俺、部隊を持たなくて」
「…必要か?」
「それを決めるのは俺じゃないよ」

随分しおらしくなったもんだ、と呟けば 彼はまだ怒ってるの?と首を傾げた。

「俺を殺そうとした奴がよく言うよ」
「弔くんが裏切らない限り、俺は裏切らないよ」
「俺は何があっても裏切らない。命令がなくても、信じてろ」

わかった、と彼は頷いた。
部屋につけば丁寧に体をベッドに下ろされた。
他のやつは用意された別の部屋に先に行ったようだ。

「外せ」

仮面を指差してそう言えば彼は何を言うでもなく、その仮面を外した。
真っ正面から見つめたその顔に、つい顔が緩むのがわかる。
久々に見た。

「何笑ってんの」
「いや、」
「弔くんも、外してよ」

言われた通り手を外し、傍に置いた。
両手を広げれば 彼は目を瞬かせてから 溜息をつく。

「どうしたの、弔くん」
「別に」
「…いいけどね」

腕の中に収まった彼は俺の背に手を回す。
久々に触れた彼の温度が心地いい。

「心喰、」
「うん?」
「…俺から離れることは許さない。たとえ、何があっても」

仰せのままに、と彼は言った。

「それから、俺に隠し事はするな。…あの、個性の成長はなんだ」
「それについては俺も話すつもりでいた。けど、」
「けど、なんだ?それにあの赤いっ!?」

あの赤い石は、と言おうとした俺の唇を彼の唇が塞ぐ。

「急になにしてっ!?」

ゆっくり距離を取った彼は人差し指を自分の唇に添え、「この建物まだ信頼できないんだよね」と部屋を見渡しながら言った。

「…お前らしいな。つーか、手で塞げよ」
「後で別で連絡する。ごめんね、したくなっちゃったから。嫌だった?」
「別に。とりあえず、早くしろよ。…それから、」

俺以外に心を許すなよ、と言えば彼は目を瞬かせてから 嬉しそうに笑った。

「弔くん、」
「…なんだ」
「安心していいよ。弔くんが、俺の全てだから」





「流石、人気者だね。ホークス」

なんでホークスがいるの、と囲まれていたはずなのに振り返れば真っ直ぐ彼のところまでできた道。
顔にはマスク、黒いローブが歩く度に揺れる。
目撃情報で挙がっていた通りの見た目だ。
周りが声を潜めながら彼を見つめていた。

「改めまして、ハートイーターです」
「会えて嬉しいですよ。ホークスです」
「俺には頼らなかったんだね」

ハートイーターはそう言ってゆるりと首を傾げる。

「何がです?」
「荼毘から聞いたよ。彼のこと」

それは恐らく、荼毘に渡したジーニストの死体のことだろう。

「…俺に喰べさせてくれるものだと思っていたのに、残念だなぁ」
「連絡がつかなかったんですよ、荼毘と」
「あぁ…なるほど。まぁ、命拾いしたね?」

え?と固まった俺に彼は笑うみたいに、仮面の口元にあったチャックを開く。

「ヒーローの心臓の味は、格別だから。偽物だったら、すぐにわかる」

真っ赤な舌が唇をなぞる。
その姿に背筋が震えた。

「なんて、ね。そんな怖い顔しないでよ」

冗談だよ、と手をひらひらとさせた。
手袋に隠された手。
何が手掛かりがあれば、と思っていたが素肌も見せないのか。
さっきの死柄木との会話を聞いても、警戒心は強い。
死柄木とはとても親密そうだったし、恋人?なのか?
まず、なんで死柄木とハートイーターは一緒に行動してるんだろうか。

「ハートイーターさんは部隊は持たないんですね」
「そうだね。俺は俺で忙しいから」
「俺、ハートイーターさんの部隊に入りたかったのに」

やめた方がいいよ、と彼は笑った。

「もし、部隊を持っていたら俺が1番の汚れ仕事担当だから」
「…死柄木弔のお気に入りなのに?」
「だからこそ、だよ?」

手袋に包まれた手が俺の頬に伸ばされ、輪郭をなぞる様に首に下りていく。

「個性を持った人間を殺すことこそ、俺の生きる意味だから」

手袋が触れた首はなぜだが、冷たいと感じた。
ひゅっと喉が鳴ったのをやはり、彼は笑った。

「民衆の前で、ヒーローの首を掲げるくらい…できるようになったら俺のところに来るといいよ」

首から彼の手が離れていく。
そして、仮面のチャックを閉めた。

「じゃあ、今日は挨拶しに来ただけだから ここで失礼するね」
「…また、会いましょう」
「そうだね」

人が作った道を歩いていく彼の背を睨み、内心舌打ちをした。
何も情報は得られなかったし、恐らくだが疑われている。

「あ、そうだ」

ピタリ、と足を止めた彼が振り返る。

「ホークスって、誰と仲良いの?」
「え?」
「ヒーロー、だよ」

なんて、答える?
これは何を求めているんだ?
殺すつもりか?それとも、俺に殺させたいのか?
それとも、他に…意図があるのか…?

「そ、うですね…」
「うん」
「エ、エンデヴァーさん…ですかね」

エンデヴァー、と彼は一度呟いてなるほどねと背を向けた。

「あの?なんで、」
「いや、殺すのは最後にしてあげようかなって思っただけ。けど、No.1か…手も出しにくかったし、ちょうどいいか」
「優しいんですね」

恨まれるのは嫌だからね、と彼は言って黒いローブを翻しながら去っていった。
この答えは、多分…正解だったはずだ。
エンデヴァーさんなら簡単に殺されることはないし…。
最後にしてあげるってことは、俺の情報は最後まで届けられる。

「はぁ…」

さすがは、ハートイーターってところか。
自然と肩に力が入っていたらしい。
肩を落とし、彼の触れた首をなぞる。
触れられた瞬間に、死を錯覚した。
あれは間違いなく、数多の命を奪ってきた手だ。



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