俺も行っていい?

パーティーが終わり、後片付けをしていた時に偶然聞こえた。

「緑谷、爆豪。もし行く宛が無ェなら来るか?エンデヴァーのインターン」

声の方を振り返れば、轟の言葉に2人が固まったのがわかる。
何言ってんだ、と珍しく爆豪が動揺していた。
あの3人がエンデヴァーの元へ…。

「面白くなってきたな」

片付け途中だった皿をテーブルに置いて、変な空気が流れる彼らに歩み寄る。

「ねぇ、それ」
「あ゛?」
「俺も行っていい?」

今度は轟まで目を丸くさせた。

「エンデヴァーのインターン、俺も行きたいんだけど」
「…霧矢が?なんで?」
「No.1の元で学びたいって思うのに、理由が必要か?」

何考えてるの、と緑谷が言った。

「何って?何が?」
「おかしい…よ。霧矢くんが僕がいるとわかってて選ぶの」
「…別に、お前と同じ所に行きたいんじゃないよ。ただ偶然、俺の求めるものの先にお前がいただけ」

どう?難しい?と轟を見れば、俺が頼めば多分大丈夫だと答えた。

「…そう、それはありがたい。申し訳ないけど、よろしく頼むよ」
「お前、前のインターン先は?」
「小さい所だったから、今回は候補から外れた。どうせ行くなら、意味あるものが欲しい」

監視しておきたい緑谷と爆豪。
そして、ホークスと繋がっている可能性のあるエンデヴァー。
こんな好条件に食いつかないわけがない。
だが固執すれば怪しまれる。
上手く話を動かすべきだな。

「まぁ…緑谷がどうしても嫌だというなら別に構わないよ」
「え、」

俺が笑ってやれば爆豪は無言で緑谷の足を蹴った。

「痛っ!?」
「テメェごときが他人の選択にケチつけんのか?あ?」
「ち、違うよ!?そういうつもりじゃなくて!!ただ…」

あれ 意外だな、爆豪が俺のフォローをするなんて。
いや、まぁ緑谷と俺を天秤にかけてマシな方を選んだだけ?
それとも、他に意図があるのか?

「…いや、なんでもない。邪魔はしないでね」
「何言ってんの?いつも俺の邪魔をしてるのはお前だろ?」

言葉を詰まらせた緑谷を無視して轟の方を向き直る。

「結果がわかったら知らせてもらえる?」
「あぁ、わかった。なるべく急ぐ」
「ありがとう、助かるよ」

とりあえず結果待ちだな。
ダメだった時のことも考えて他に何個か候補はあげておくか。





「エンデヴァーの元へ?」

仮眠室。
オールマイトとデク、そして俺3人が集まり伝えたインターンのこと。

「3人で?いいじゃないか!是非揉んでもらいなさい」
「4人だ」
「え?」

霧矢も来る、と言えばオールマイトがぴくりと眉を動かした。

「何故霧矢少年が?」
「さぁな、理由はわからねぇ。けど自分からふっかけてきたから、何かしら意図はあんだろ」
「…僕を疑っている、とか?」

ねェとは言えねェな、と言えばデクは俯いた。

「…アイツにどんな意図があるにしろ、俺は好都合だと思ってる。俺らの知らねェとこで下手に動かれるより監視できる場所にいた方がいいだろ」
「監視って言葉は良くないけど、爆豪少年の言う通りだろうね。疑いがあるわけじゃないけど、もし本当に知られてしまった時近くにいた方が動きやすい。君たち2人が一緒なら尚更、その方が安心なはずだよ」
「…分かりました」

OFAの修業はどうしましょう、とデクが話を変える。
正直な話、アイツが何を考えてんのかわかんねぇンだよな。
アイツの目指すヒーロー像?将来像がエンデヴァーに近いとは思わないし。

「私は順調だと考えてる。黒鞭発現から今日まで。まだ見ぬ個性が飛び出すこともなかったろ。施錠・解除のイメージ作りが出来ていればまた暴れさせるようなことにはならないはずだ」
「はい!」
「俺だったら全ブッパできる」

しそう、とデクは答えた。
恐らく、霧矢もできるだろうな。
目の前で黒鞭の暴走を見て、その上であの行動だ。
鞭の伸びる先一つ一つに壁を作っていた。
そういう個性だと理解してしまえば、大元のこいつを潰すことなど容易だろう。

「爆豪少年もグッドタイミングだね」
「あ?」
「君とエンデヴァーには似たところがある。今のエンデヴァーを間近で見られるのは君にとって良い事だ。2人ともトップヒーローになるならチャンスは逃すな…!」

グッと手を握り、オールマイトは笑った。

「そこを考えれば、霧矢少年もエンデヴァーの元で学べるのはプラスかもしれないね。先日のメディア演習の様子を見てもね」
「俺とアイツが似てるって言いてェんか」
「いや!似てるとは言わないけど、似ていないとも言えないかな。緑谷少年とは対極にいるようだけど、爆豪少年にはどこか近しい気がしてる」

腹は立つが、それは自分も感じるところではある。
アイツの思考には追いつけないが、アイツは勝つことで守るタイプの人間だ。
守る為に勝とうとは、決してしてない。
ともなれば、エンデヴァーの元へ彼が赴くのもわからないでもない。

「とりあえず、くれぐれも喧嘩はしないこと。何かあれば遠慮なく連絡をしてくれていいよ」
「はい!」





「ようこそ、エンデヴァーの下へ」

似合わない笑顔を見せた彼に若干の不信感を抱けばすぐにその表情は崩れた。

「なんで気分ではないな。焦凍の頼みだから渋々許可したが!!焦凍だけできてほしかった!」
「許可したなら文句は言うなよ」
「しょっ焦凍!!」

エンデヴァーってこんな感じの人だったのか。
ちゃんとした接触は初めてか?

「補講の時から思ってたがきちィな」
「焦凍本当にこの子と仲良しなのか」
「まァトップの現場見れンならなんでもいいけどよ」

爆豪の態度に「友人は選べと言ったハズだ!」とエンデヴァーが吠える。
轟は迷惑そうに顔を顰めていた。

「許可していただきありがとうございます。学ばせてもらいます!」
「焦凍は俺じゃない…だったな」
「え」

緑谷とエンデヴァーの会話の意味はわからないが、どうでもいい。
それよりも耳に届く音の方が気になる。
そちらに視線を向ければエンデヴァーが急に飛び出した。

「申し訳ないが焦凍以外にかまうつもりはない。学びたいなら後ろで見ていろ!!」

彼の体に炎が湧き出る。

「指示お願いします!」
「後ろで!!見ていろ!!」

飛び出した3人の後を追いかけながら、はぁと溜息をついた。

初っ端からこんなんかよ、面倒くさい。
エンデヴァーの戦闘になんか興味はないが、振り切られればそれはそれで印象が悪いだろうな。

「まァ…いい練習だと思うしかないな」

賢者の石を覆い隠すものを取り払い、そっと握り締めた。
駆け付けた先にあったのは大きな球体。
周りのガラスを集めたもののようだ。
どろりとしたガラスが集まっていくその球体をエンデヴァーが貫いた。

「赫灼熱拳!!」

大きな爆発音と共に飛び散ったガラス。

「硝子操作かご老人。素晴らしい練度だが…理解し難いな。俺の管轄でやることじゃない」

敵はふわふわと浮かびながら細い路地へ。

「避難を頼む!!」

駆け付けたサイドキックらしき人にエンデヴァーはそう声をかけ細い路地へ吸い込まれていく。
3人もそれを追いかけていくのを見送り、ガラスの散らばった地面に両手をつけた。

「えっ!?」

目の前のサイドキックが目を丸くさせる。
地面に出来上がる何枚ものガラス板。
それをそのまま地面で押し上げ、吹き抜けになってしまったそれぞれの窓にはめ込んだ。

「えっと…?」
「あ、すいません。雄英高校の者です。インターンでエンデヴァーさんの元へ」
「あー、なるほどなるほど」

勝手をしてすいません、と呟けば「いや、ありがとう」と彼は答える。

「応急処置的にはめ込んだだけなので、再度点検をお願いします」
「了解」

現場をそのヒーローに託し、とりあえずエンデヴァーの向かった先へ行けば取り押さえられた数名の敵と待ち望んだ姿。

「来る時は連絡を寄越せ」
「いやマジ、フラッと寄っただけなんで」

ふわりと生温い風が赤い翼を揺らした。


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