ようこそ、

現場にいたのは、ホークスだった。
いつの間に来たのかは知らないが、初日でお目見えするとはな…。
やっぱり、繋がってる可能性は高そうだな。

パトカーが駆け付け、敵は連行されて行き、先程のヒーローが「あとはこっちで」とエンデヴァーに声をかけた。

「君、雄英のえっと…名前は、」
「アルケミストです」
「うん、アルケミスト。ガラスの点検もすでに開始したよ。安心してくれていい」

そのヒーローの言葉にエンデヴァーの視線がこちらへ向いた。

「それは良かったです。建物内部に怪我をされた方は?」
「今のところはなし、ありがとう」
「いえ、」

また現場で、と彼は片手をあげ警察官の元へ歩いていった。

「…何をしていた」
「割れたガラスを直して、窓に戻しただけです。貴方の指示なしに勝手な行動をしたことは先に謝罪しますが、強風がガラス片を撒き散らし被害が広がってはダメかと思いまして」
「錬金術、と言ったか…」

品定めするようなその目を見返せば、彼はふんっと鼻を鳴らす。

「褒めはせんぞ」
「…そんなもの貰いに来たわけではないので、問題ありません」

エンデヴァーが警察官に話しかけられる中、緑谷が背を正しホークスに自己紹介をしていた。

「指破壊する子。常闇くんから聞いてる。いやー俺も一緒に仕事したかったんだけどね」
「常闇くんは…ホークス事務所続行では…」
「地元でサイドキックと仕事して貰ってる。俺が立て込んじゃってて…悪いなァって……思ってるよ」

ホークスってあんな表情してたか?
もっとヘラヘラしている印象だったけど。

「さっきのぁ俺の方が早かった」
「それはどーかな!」

ホークスを睨みつけていた爆豪に彼は笑ってそう答えた。

「で!?何用だホークス!」
「用ってほどでもないんですけど…」

彼がそう言ってポケットから出したのは異能解放戦線の本。
リ・デストロが嬉々として皆に配っていたものだった。

「エンデヴァーさんこの本読みました?」
「異能解放戦線…」
「いやね!知ってます?最近エラい勢いで伸びてるんスよ。泥花市の市民抗戦で更に注目されてて」

軽い口調に合わない表情。

「昔の手記ですが今を予見してるんです。"限られた者にのみ自由を与えればその皺寄せは与えられなかった者に行く”とかね。時間がなければ俺マーカーひいといたんでそこだけでも!」

まずもっておかしい。
何故エンデヴァーにこの本を勧める?
この男が仲間になるとでも?

「デストロが目指したのは究極あれですよ。自己責任で完結する社会!時代に合ってる!」
「何を言ってる…」
「そうなればエンデヴァーさん、俺たちも暇になるでしょ!」

読んどいてくださいね、とエンデヴァーに手渡された本。

「No.2が推す本…!僕も読んでみよう。あの速さの秘訣が隠されてるかも…」
「そんな君の為に持ってきました」

服の中から出てきた4冊の本。

「用意が凄い!どこから!?」
「そうそう時代はNo.2ですよ!速さっつーなら時代の先を読む力がつくと思うぜ」

差し出されたその本を開き、パラパラとページを捲る。

「デストロって敵でしたよね?」
「え?あぁ、そうだけど。えっと君は、義手の」
「アルケミストです。良いんですか?ヒーローがこんな大っぴらに敵の思想を推して」

一瞬、彼の表情が固まった。

「…時代のニーズがあるからね」
「自己責任が、時代のニーズか…なるほど。殺すも殺されるも自己責任。そりゃヒーローも警察も暇が手に入りますね」

爆豪が俺を見て、舌打ちをする。

「やめろ、錬金野郎」
「個性を持たぬ者は、弱者は、淘汰されろってことであってます?自己責任ですもんね、生まれながら弱者だったことが悪い…と」
「そこまでは言ってないよ」

感情を出さないな。
どこまで揺さぶれる?
今、これだけの目がある中で。
てか、ホークスの翼にはマイクロデバイスがつけられていた筈だ。
下手に霧矢心が目立ってしまうのも困る。

「お前が言おうとしてることは予想がつく」

何と言おうか、と考えていれば口を挟んだのは爆豪だった。

「それをコイツに伝えてなんになる」
「…確かに、その通りだな」

君は頭が良さそうだね、とホークスは言った。
真剣な目が俺を真っ直ぐと射抜く。

「勘が良い子は嫌いじゃない。君は特に、時代の先を見るといいよ。今に意味はない。これからは少なくとも解放思想が下地になってくと思うんで」

知っているからか?
今ではなく、時代の先…未来で この思想を下地とした世界へ変わる。
そういう意味に、聞こえて仕方ない。
エンデヴァーがもし同じようにこれを受け取ったのだとしたら?
やはり、彼らは繋がっていると考えられる。
まだ証拠が足りないな、ホークスを黒だとするには。

「…勉強、させていただきます」
「うん!頑張って。全国の知り合いやヒーロー達にも勧めてんスよ。マーカー部分だけでも目通した方がいいですよ。2番目のオススメなんですから」

ふわりと彼の体が浮き上がる。

「皆さん、インターン頑張ってくださいね」

その姿はすぐに見えなくなった。

「若いのに見えてるものが全然違うんだなぁ…まだ22だよ」
「6歳しか変わんねぇのか」
「ムカつくな…」

緑谷たちの言葉にエンデヴァーは静かに同意していた。





「ようこそエンデヴァー事務所へ!」
「我ら炎のサイドキッカーズ!」

仁王立ちする女性。
確か、有名なサイドキックだ。

「緑谷くん以外は初めてのインターンってことでいいのね?今日から早速我々と同じように働いてもらうわけだけど!!見ての通りここ大手!!サイドキックは30人以上!!つまァりあんたらの活躍する場面はなァアい!!」
「面白ェ、プロのお株を奪えってことか」
「そゆこと!ショートくんも!!息子さんだからって忖度はしないから!せいぜいくらいついてきな!」

暑苦しい。
その一言に尽きる。

「活気に満ち溢れてる…!」
「No.1事務所だからね。基本的にはパトロールと待機で回してます!緊急要請や警護依頼、イベントオファーなど一日100件以上の依頼を我々は捌いてる!」
「そんじゃあ早く仕事に取り掛かりましょうや。あのヘラ鳥に手柄ブン奪られてイラついてんだ」

エンデヴァーの指示を待ってな、と指差し先には重厚な扉。
あそこがエンデヴァーの自室か。
防犯カメラも結構な数あるな。
ぱっと見の入り口はあそこ一つのようだが、裏にもあるのだろう。

「まーしかし、ショートくんだけ所望してたわけだし多分3人は私たちと行動って感じね!」
「No.1の仕事を直接見れるっつーから来たんだが!」
「見れるよ、落ち着いてかっちゃん」

俺からも言ってみるよ、と轟が言った時、重厚なその扉がゆっくりと開かれた。
炎が揺らめく。
そして、先程までとは違う雰囲気。

「ショート、デク、バクゴー、アルケミスト。…4人は、俺が見る」

急に何が変わった?
何故?
1時間も経たぬ間に、意見を変えた理由は?
そんなん、一つしかないだろう。
ホークスから何かを受け取った。
そして、俺たちを育てねばならない状況になった。
なんて、ホークスの裏切りを前提にした考えに過ぎないが。

「そうこねぇとな!」

爆豪が嬉しそうに笑う。

「…ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」

丁寧に頭を下げそう伝えれば、冷たい目が俺を見下ろした。
とりあえずもう少し、調べる必要があるな。
ホークスについてもエンデヴァーについても。





「とりあえず解放思想の浸透をガンバってます!」
「おいホークスおまえ、すげー頑張るな!いい奴だな!!悪人だろ!俺の部下にしてえよ!」
「どーも。公安は未だに連合は少数で潜伏してると思ってます。解放軍の存在に気付いていない。泥花市事件の連合関与について捜査中ですが戦士たちが上手くやってます。あとは例の悠長な後身育成が始まってますね」

映像に映った3人の学生。
出久くんです!とトガが嬉しそうに笑う。

「あまり成長してねぇみてぇだな」
「まー言っても学生ですからね」

敵を押さえ込んだあと、現れたそいつに皆が口を揃えて「あ!」と言った。

「どうしました?」
「いや、」

心喰、アイツもここにいたのか。
制服に身を包んだ彼が、ホークスに冷めた視線を送っていた。
ホークスを探る、とは連絡があったがまさかエンデヴァーの元へ行くとはな。
No.1の懐に入り込むなんて、馬鹿だろと思いながらもやはり彼らしいとさえ思うのだ。
画面から顔を上げれば同じことを考えていたのだろう。
元連合メンバーは呆れたように、でもどこか楽しそうに笑っていた。

ホークスが部屋から出て行きまた会議が進む。

「予定通りでよろしいでしょうか、スピナー」
「あぁ、戦士たちの士気を維持しておけ」
「弔くんが力を手に入れたらいよいよやっちゃうんですよね。全部壊すby弔くんです」

とりあえず、夜に一度連絡をいれるか。
楽しそうだな、と一言言ってやろう。
そしたらきっと、彼は笑うのだろうから。


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