宣戦布告

今まで撮影された映像を見ながら 弔くんは本当に講師なんだなと小さく呟いた。

「どうなると思う?平和の象徴が敵に殺されたら」

弔くんは楽しそうに笑った。
彼の笑い声を聞きながら 繋がれて大人しくしている脳無に近づく。
楽しいことになるね、と俺も笑えば そろそろ作戦を立てましょうかと黒霧が言った。

「前見てもらった通り施設は凄く多いし 場所によっては校舎から離れててバスで移動してる。授業もクラス毎だから 張り付いてるヒーローは必然的に少なくなるよ」
「そこにオールマイトがいればいいな」
「そうなる。まぁ、いなくても 生徒が危ないとなれば駆けつけると思うけど。そこから少しすれば他のヒーローも来ちゃうかも」

なるほどな、と敷地の見取り図を見ながら弔くんが首を傾げる。

「侵入経路は確保できそうか?」
「侵入経路については、俺がセキュリティを無効化できると思うからその隙に入ってくればいいと思う。ただ、俺は当日になるまで授業内容が誰がどこで何をやるのかが わからないんだよね」

そこはこちらで調べましょう、と黒霧が言った。
やはり 俺以外にも内通者がいるんだろうな。
まぁ、俺とその人が接触することはないから 気にはしてないけど。

「了解。じゃあ、黒霧にそっちは任せるね。実行日までにある程度 校内を調べておくね」
「怪しまれるなよ」
「わかってるよ」

セキュリティを一時的に無効化したあとどうにかできますか?と黒霧が首を傾げた。

「パソコンとそれを繋げる場所があればいけると思う。まぁ、今まで敵の侵入を許してないとこを見ると相当なセキュリティだと思うから 外部からの侵入より内部の乗っ取りの方が短時間で済むと思う」
「セキュリティの管理室は?」
「まだ見つかってない。けど、そこにヒーローが配置されてるとは思えないから 校舎内とかでなければ制圧はしやすいかも」

わかりました、と黒霧が頷いた。

「また新しいことがわかれば報告をお願いします」
「りょーかい」

話を終えて制服に着替えたいれば、珍しく弔くんが外行き用の黒いパーカーを着ていた。

「あれ、弔くんもどっかいくの?」
「戦線布告」
「俺抜きで、楽しいことしてる。ずるくない?」

そう言うなよ、と彼は俺の頭を撫でた。
困ったらすぐに子供扱いする。

「今はまだ、我慢してて」
「あんまり 待て ばっかりさせると 俺噛み付いちゃうからね」
「厄介な犬だな」

冗談だよ、と笑ってネクタイを締める。

「じゃあ、行ってきます」
「あ、心喰」
「なに?」

ワープゲートをくぐる直前、彼が俺の腕を掴んだ。

「今日の昼休み。中の動きよく見ておいて」
「昼休み?中?…なるほど、うちへ来るのね」
「そういうこと」

了解、と答えて 笑った。





昼休み。
セキュリティ3が突破されましたという放送。
過去にこんなことなかったと 学生たちが話しているのが聞こえた。
騒がしくなった校内。
ちらりと覗いた学食も酷い有様だった。

警報と放送が鳴ったあと、そのパニックを鎮静化させたのはほとんどが学生だった。
職員室のヒーローの何人かは外に駆けていったし、初めてのことだからか狼狽えるヒーローの姿もあった。
ある程度鎮静化した後に対応にあたったのは、プロヒーローたちだった。
だが、初めてのことだとしても 鎮静化までに時間をかけすぎている印象を受ける。
ここのセキュリティは盤石だと 信じて疑わぬ姿勢から来るものだろうな。

校舎の外へ出れば雄英バリアとか呼ばれる部外者侵入を防ぐ扉がボロボロになっていた。
恐らく弔くんがやったのだろう。
その前には立って喋るねずみと数名のプロヒーロー。
この派手な戦線布告を彼らはどう受け止めたんだろうか。
だがしかし、これだけの数のプロヒーローが駆けつけてきたら、完全にこっちが不利になる。
救助を呼ばれたと仮定しても 到着が1番遅れるようにするべきだな。
となれば、周囲の電子系統も止めておきたい。
この戦線布告を受け止めて、警備が厳しくなる可能性も考慮に入れておこう。
頭の中で色々考えながら教室に戻れば大丈夫だったか?と瀬呂が駆け寄ってきた。

「別に、」
「霧矢っていつもどこ行ってんの?気づいたらいないけど」
「お散歩」

妙に関わってくるんだよね、この人。
しかも距離の取り方が上手いから 拒否しにくいし。

「今度一緒に飯食おーよ」
「…そーだな、」

馴れ合いは御免だけど、怪しまれるのも今後動きにくくなる。
とりあえず彼はクラスの中では付き合いやすそうなタイプだし、周りに不審がられない程度には親しくしておくべきなんだろう。
緑谷とも関わっておきたいけど、あんまり深く探りを入れすぎると怪しまれるだろうし。

「言ったな?約束な」
「わかったよ」




「明日、やるぞ」

帰宅して学内での状況を報告すれば弔くんは そう言った。

「明日?急だね?」
「手に入れた情報によるとこのUSJって施設で 心喰のクラスの授業がある。そこにオールマイトもいると情報が来てる」
「なるほどね」

確かにUSJって施設は校舎から遠く、バスで移動する施設だったはずだ。
それから ここがセキュリティ管理をしてる部屋だとUSJの近くにある建物を指差した。
こんなとこに設置してたのか。
そりゃ校内を探し回ってもないわけだ。
この立地は確かに作戦実行には申し分ない。

「当日は、授業開始前に心喰がセキュリティを無効化して、俺たちが侵入。その後、生徒をバラバラに敵と戦わせる」
「その間に心喰だけ施設の外へ飛ばすので ハッキングしてセキュリティを止めてください」
「任せて」

その際はこれを、と渡されたのは携帯くらいの大きさのもの。
開けば小さなパソコンのように なっていた。

「俺は内部の戦闘には加わらないってことだよな?」
「今回はそうなる」
「喰いたかったのに」

まぁ、こればっかりは仕方がない。

「ただ、」
「ただ?」
「敵連合にお前がいるってことは 証明しておきたいってのは、ある」

ハートイーター。
それは、単独の敵だと考えられている。
そこに不満はなかったけど、確かに連合として大々的に動くのであれば 俺の存在を出しておきたいか。

「今回、雑魚敵も集めてるんだろ?」
「あぁ、」
「それなら 口封じも兼ねて それ喰おうか?」

ただ、生徒をバラバラに飛ばしているとなるとどこで誰が見ているかわからないから怖いかな。
仲間割れにも思われるかな?

「全員をとなると、難しくないですか?連合の人を食べたとなれば、学内に心喰がいると思われる可能性もありますし」
「黒霧の言う通りだな」
「それなら、セキュリティ管理室の人 喰えばいいかな。それなら、敵連合と通じてるってわかるだろうし。あれはヒーローではないから、やりやすい」

少し考えてから それだな、と弔くんが頷いた。

「セキュリティの方が終わったら、施設内に戻っていいの?その後は?」
「終わったら連絡くれ。ゲートを開く。ほかのやつらがいないところに飛ばすから、上手く広場に戻って紛れ混んでくれ」


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