COLORLESS


「なるほどねえ」

持ち帰った映像をスケプティックのパソコンで眺めながら用意してくれたコーヒーを啜る。

「だから嫌だったんだ。ヒーローなんか、受け入れるのは…」
「言いたいことは分かるよ。けど、戦線には他にもヒーローはいるしあれだけ弾くのは難しい話だったろ」

本に引かれたマーカー。
その2文字目が伝える俺たちのこと。

「敵は解放軍、連合が乗っ取り。数十万以上…4ヶ月後…決起…それまでに合図送る…失敗した時備えて数を」
「インターンはその為か…」
「学生を戦争に駆り出すとは、大人は相変わらず醜いな」

爆発と共に映像が消える。

「恐らく、向こうが動き出すのは弔くんが目覚める前だろうなぁ」
「どうする気だ」
「どうしようかね」

4ヶ月というリミットは変えられない。
と、なればそれに備える他ないが。

「恐らく、全面戦争だろうな。こっちが悟ったことに気付けば、またわからなくなる…今は騙されたフリするのが1番だ」
「戦争が起こるとわかっているのに何もしないのか?」
「何もしないとは言ってない。実際にあいつが持ってくる情報は俺達には知り得ないものばっかりだ」

それはそうだが、とスケプティックは眉を寄せる。

「だからこっちも、悟られないように準備をしよう。4ヶ月後に向けて動いていると…思わせながら」
「なるほど、」
「部隊ごとに緊急時のオペレーションの見直しと個性強化を…。あとは、引き続き監視を続けて 俺に報告してくれるか?」

それから、と指先で机を弾く。

「邪魔くらいは…しておこうかな。準備の」
「と、いうと?」
「何人か戦士を借りていいか?」

それは構わないが、と彼は言う。

「あと、3Dプリンターで俺の歯型作ってくれ」
「……まさか、」
「ヒーローを減らせる上に、錯乱にもなる。一石二鳥だろ?」

すぐに準備をする、とスケプティックが動き出す。

「俺が何人か見繕ってきていいか?」
「自分でか?」
「うん。候補がいるから」

部屋を出て無効化の個性を解除する。
建物の中を歩けば、ざわつかれるのはもう慣れたが。
辺りを見渡しながら、記憶に新しい少女を探す。

「あ、いた」
「え?ハートイーター様!?」
「こんにちは。ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど。力、貸してくれない?」

頬を赤く染めた少女は何度も何度も頷いた。


「…どういう基準で集めたんだ…」

部屋の中に集まったのは老若男女、様々な戦士だった。
人数は13名とこれまた微妙な人数。

「全員、生粋の病的なハートイーター信者」
「あぁ……なるほど、」

あの少女以外にも、いたのだ。
俺に感謝していると告げてくる者たちは。
ある者は息子を殺した殺人犯を殺してくれたと、ある者は自分を虐めていた人を殺してくれたと、ある者は個性を振り翳し圧政をしく上司を殺してくれたと。
まぁ、理由は様々だが 偶然にも俺が殺した者に 押さえつけられていた人達。
それがここに集められた彼らだった。

「君達には俺から直々に、一つだけ仕事を頼みたい。君達にしか、頼めないことだ」

歯型をはめ込んだ機械と錬成し作った唾液の入った小瓶を配る。

「君達は開闢行動暗躍部隊 …COLORLESS」
「え?」
「俺と共に…ヒーローを殺せ」

パァ、と彼らの表情が華やいだ。
俺をヒーローと、神と讃える彼らだ。
俺からの言葉は絶対であり、そして俺を裏切ることは出来やしない。

「君達が罪を背負う必要はない。全て、ハートイーターの所業にしてくれて構わない。その歯型と小瓶を使ってくれ」
「俺達でいいのか…!?」
「貴方達しかいないんだよ。力を…貸してくれるか? 」

彼らの返事は聞くまでもなかった。

「弔くん……死柄木弔にも内緒で、君達にだけ声を掛けている。この意味がわかるね?」
「「はい!!」」
「例え仲間であってもバレてはいけないよ。俺と君達だけの秘密だ。誰にも言わず墓場まで、持っていけ」

物がなくなればスケプティックに、と伝え 一先ず解散させる。

「…怖いもんだな、ハートイーター…」
「使えるものは使う。それだけだ。スケプティック、君も分かってるよね?」
「あぁ、」

聡明で助かる、と笑い立ち上がる。

「そろそろ自分のやるべき事に戻るよ。何かあれば連絡を」
「あぁ、」





一足先に課題を抜けたのはアルケミストだった。

「やりすぎだ」

地面に押さえつけられた敵の服は炎で焼け焦げ、意識はない。
散らばった金属片が彼の足元でじゃり、と音を立てる。

「……そうですか?」

敵を拘束して、彼は少し離れた所にあったドーム型のコンクリに歩み寄る。
それに彼が触れればドーム型になっていた地面が解け、中に親子の姿があった。
アルケミストは「暗かったよね、ごめんね」と母親の腕に抱き締められた泣きそうな女の子に微笑みかける。

「お怪我は?」
「大丈夫、です…ありがとうございます」
「いえ、やるべきことをしただけですので。突然暗い所に押し込めてしまってすみせん。すぐに警察が来ますので、少し待っていてくださいね」

金属片を両手に隠したかと思えば、小さなキラキラしたうさぎを彼は作った。
少女の顔が華やぐのを見て、アルケミストもほっと安堵したように表情を緩める。

他の3人と違い、何かを新たに求めているわけではなかった。
とはいえ、本職を凌ぐこの気付きは稀有なものだ。

「うさぎさんだ!」
「お母さんと一緒に頑張ったお嬢さんにプレゼント」
「いいの!?」

小さな手に触れた彼は微笑み、そっとその頭を撫でた。

「よく頑張ったね」
「ありがとう!ヒーローのお兄ちゃん!」

それを大事そうに握りしめた少女の傍から離れた彼は、こちらに歩み寄る。

「…何故気づけた?」
「エンデヴァーさんが前方のご老人に意識を向けていたからです。交差点を渡るあの方を見てましたよね?」
「……良い判断だ」

犯人の引渡しを終えて、サイドキックと共に先に帰還していたショート達と合流をした。
デクは彼が苦手なのだろう。
言葉をかけるか躊躇う中、ショートが「すげぇな」と一言彼に言葉を投げた。

「ありがとう。轟が俺の我儘聞いて、ここに連れてきてくれたからだよ」
「いや、別にあれくらい…」
「本当に、助かったよ。ありがとう」

どろり、と溶けだすように彼は微笑んだ

「……聞いても、いいか。どうしてそんなに気づけるんだ?霧矢の個性は索敵向きでもないだろ?」
「予測、かなぁ。敵だったら、どう動くか。俺たちヒーローはどう動かれたら困る?それを考えたら、それが必然的に敵の動きになる」

例えばそう。と彼は周りを見渡した。

「俺が敵だとしよう。目的…因縁の相手は緑谷だとする」
「え、僕!?」
「さぁ、俺はどう動くと思う?」

轟はきょと、としてから同じように周りを見渡した。

「緑谷が嫌がること…。周りを巻き込む…?一般人とか」
「それもまぁ、ある。けどそれ以上が、あるはずだ」
「それ以上……あ、爆豪?」

正解、と彼は笑った。
あ゛!?!!と不機嫌そうに吠えた爆豪を無視して彼は話始める。

「俺が敵で、緑谷が因縁の相手なら…爆豪を狙う。そっちの方が、緑谷の心に傷を負わせられる。誰かを恨んでいるタイプの敵は本人よりその人の周りの大切な物を狙う。ってこと。じゃあ世間を恨んでいる人は?」
「…無差別に、人が多いところ……昼間を狙う?」
「正解。恨む相手が大きくなればなるほど、範囲が大きくなる。恨みの相手が人でなければそういう…広範囲的な犯罪になりやすい」

じゃあ、思想犯はとデクが尋ねれば「ステインがいい例だよ」と答えた。

「思想犯は自分の意見を伝えたい。その為には、長期的な犯行が必要になる。世間の目を向けてもらうためにね。だから、夜や人気の少ないところでの犯行が増える。そして、自分の意志を残す。ただ、革命的な思考の場合は…自己犠牲ありきで大々的なことをすることもある。ちょっと相手しにくいタイプだと思う」
「……突発的な犯罪も多いだろ?」
「そこに関しては、予測は難しい。ちょっとした苛立ちとか不注意から起こっちゃうから。」

そういうのは君らみたいな機動力が有効だろうね、と言った。

「じゃあ……死柄木弔は?」

デクの言葉に、一瞬だけ霧矢の表情が消えた。

「弔……死柄木弔は…複合型…じゃない?元はオールマイトへの恨みだったように見える。だから、オールマイトの周り…特に大事にしているお前を狙っていた。けど、いつからか お前そのものも…恨みの対象になった。違うな、恨み辛みもあれど…純粋な殺意かもしれない。お前の心の傷なんかよりも、お前の死を望んでいるのかも」
「っ……そ、か…。じゃあ、ハートイーターは?」
「あれは…思想犯じゃないかなぁ。ヒーロー……いや、個性を狙ってる」

俺含めて、全員狙われてるねと彼は微笑んだ。

「どちらも、厄介だよ。ただそれ以上に、その2人が…人を集め手を取り合ってしまったのが…厄介だった」

霧矢の言葉を遮るようにニュース速報がテレビに流れた。

「……また、ハートイーターが……?」
「おい、しかも…同時に色んな場所でだ…!?」

黒霧が捕まったのに、何故。
数日前に会敵したあの男が嘲るように笑った気がした。


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