ゲームオーバー

「今日のヒーロー基礎学だが 俺とオールマイト そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

3人。
弔くんたちはそこまで知ってるのかな?

「災害水難なんでもござれ。人命救助訓練を行う」

コスチュームの着用は各自の判断でと指示が出て、コスチュームに着替えて 武器を入れてるポーチに例のパソコンを入れた。
バスに乗り込みふぅ、と小さく息を吐く。

今まで敵の侵入を許していなかった雄英。
セキュリティを止めると一言で言っても、楽ではないだろう。

「前も思ったけど霧矢のコスチューム シンプルだな」

隣に座っていた瀬呂が俺を見ながらそう、言った。
口元を隠すマスクと軍用サングラス。
服は真っ黒のミリタリー服で 両手は手袋に包まれている。
これで銃とか持ってれば 軍人そのものだろう。
ただ 腰にはペンやらインクに浸かった筆がしまわれているから軍人というより絵師って感じな気もする。

「俺の個性、コスチュームで変化することもないからな」
「結局、霧矢の個性がなんなのかよくわかってないわ」
「言わないけど」

USJに到着して、バスを降りる。
1番後ろに並んだ俺は、靴紐を結ぶふりをしてしゃがむ。

「大丈夫かー?」

振り返った瀬呂に平気と答えて、立ち上がる際にカードリーダーに手を触れた。
個性が発動しカードリーダーの電源が落ちたのを横目に確認する。
瀬呂の視線があるのが正直凄く面倒くさい。

「手袋しながらだと靴紐結びにくい」
「あ、それはわかるわ」
「だよな」

もう弔くんには連絡する術はない。
時間内に、侵入してくれよ。
ここからは もうお互いに信じるしかないのだ。

「水難事故、土砂災害、火事…etc。あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も ウソの災害や事故ルーム!」

相澤先生はキョロキョロと周りを見渡したが、「仕方ない。始めるか」と13号にそう声をかけた。

オールマイトがいない。
黒霧の情報が間違っていたのか?
いや。そんなことは…ないはずだ。
3人体制になるって言っていたし…

「えー始める前にお小言を1つ2つ…3つ…4つ…」

長いお小言を聴き終えて、静聴ありがとうございましたと頭を下げた先生に 拍手する生徒。
あとどれくらい止めてられるだろうか。
オールマイトは来るのか?

「一かたまりになって動くな!」

相澤先生の焦った声。

「13号!生徒を守れ!」

広場の方に視線を向けて、マスクの下で笑った。
待ってたよ、弔くん。

「なんだアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれは 敵だ!!!」

先生がゴーグルをつけて、飛び出した。
広場にいる弔くんとこの距離でも視線が交わった。
お互い 小さく頷く。
作戦 開始だ。

「初めまして。我々は敵連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴 オールマイトに生き絶えて頂きたいと思ってのことでして。」

黒霧が静かに 話す。

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはずですが、何か変更あったのでしょうか。まぁ、それとは関係なく 私の役目は これ」

黒霧が動き出す直前、殴りかかった爆豪と切島。

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったのか!?」
「危ない危ない…。そう、生徒といえど優秀な金の卵。…散らして、嬲り、殺す」

黒い靄。
彼のワープゲートに生徒達が飲み込まれていく。
そして、俺も同じように それに飲み込まれた。
ワープした先は例のセキュリティ管理室。
カードリーダーに触れて セキュリティを無効化し ドアを静かに開いた。
中にいるのは3人。
壁に手をあて、電気類を一度無効化する。
暗くなった部屋で、停電か?と中の人が言葉を交わす。
自分の周りの空気を無効化し、真空状態で音が響かぬよう彼らに近づき、手を触れ身体能力を無効化させる。

「誰だ!?」

俺に気づいたのか急に立ち上がり、音を立てて倒れた椅子。
その音に怯んだ一瞬。

「制圧完了」

一気に距離を詰め、無効化させた2人。
意識が残っていても、体は動かぬ彼らににこりとマスク越しに微笑む。

「こんにちは、ハートイーターです」

反応はないが、義手からメスを引き抜きしっかりと絶命させてから、機械に預かっていたパソコンを繋ぐ。
電気を復活させれば展開されたキーボードと画面に表示された数字の羅列。
セキュリティ管理室の画面には各場所での戦闘が映し出されていた。

カタカタとキーボードの音だけが響く。
管理会社に偽のデータを送り終え、自分の映った映像を削除。
そして、周辺のセキュリティを止めていく。
ついでにUSJ内の監視カメラのデータも全て削除した。

「よしよし。やっぱり内部からは緩々だな」

救助を呼ぶためか外へ出た飯田が職員室へ通じる受話器を手に取るが使用できないのが分かるとまた近くの施設へ。
周辺の施設で授業をしてるクラスがなくてよかったな、と思いながら周辺の全てのセキュリティが止まったことを確認する。
こうなってしまえば、飯田は職員室まで走るしかなくなる。
スピード系の個性ではあるが、ある程度の時間稼ぎはできるだろう。

「てか、逃さないでよ。もー」

自分の仕事を終えて、接続していたパソコンを抜いた。
3つの死体の胸を開いて、マスクをずらし心臓を喰い千切る。

「ご馳走さまでした」

終了の合図を送れば目の前に現れたゲート。
それを潜り、飛ばされたのはどこかもわからない場所だった。

「…俺とも雑魚敵と戦わせんの?」

飛ばされた場所にいた数名の敵。
本来なら味方なのだが、俺が怪しまれないための策なのか 仕方ない。





雑魚敵を倒し終わり、広場に戻れば 脳無がオールマイトに吹き飛ばされた瞬間だった。

まじか。
あれに勝つとか、全然衰えてなくない?
数名の生徒も戦闘に加わっているようだし、弔くんが不利だな。
戦闘には参加できないこのもどかしさ。

「さてと敵。お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…。全然弱ってないじゃないか!!あいつ俺に嘘を教えたのか!?」
「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言ってたが、できるものならしてみろよ!」

弔くんが、一歩後ろに下がった。
あ、完全に癇癪起こしちゃってる。
時々凄く子供なんだよね、、

「脳無さえいれば!奴なら何も感じずに立ち向かえるのに!」
「死柄木弔…落ち着いください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている」

首をがりがりと掻き毟る弔くん。
それを諭すように 黒霧が声をかけた。

「やるっきゃないぜ…目の前にラスボスがいるんだもの…」

弔くんが動き出そうとする コンマ数秒前。
緑谷が地面を蹴って飛び出した。

「オールマイトから離れろ!!」

殴りかかった緑谷。
オールマイトから 離れろ、ねぇ。
他の生徒はオールマイトに任せようとするなら あの緑谷だけが オールマイトを助けに行った。
やっぱり彼は…

「ごめんよ皆。おそくなったね」
「すぐ動ける者をかき集めて来た」
「1-Aクラス委員長 飯田天哉 ただいま戻りました!!」

ずらりと並んだヒーロー達。
時間稼ぎが足りなかったか。
予想よりも早い。

「あーあ 来ちゃったな…ゲームオーバーだ。帰って出直すか 黒霧、心喰」

わざとらしく俺の名を呼んで彼は、一瞬視線だけこちらに向けた。
今回はここでお開きのようだ。

ワープゲートを潜ろうとする彼に降り注ぐ銃弾。
それが何発か彼に当たった。

「今度は殺すぞ 平和の象徴 オールマイト」

俺たちの作戦は 失敗に終わった。


戻る

TOP