貴方のためなら

「ごめん」

傷口を消毒していれば聞こえた言葉。
顔を上げれば俯いて目を合わせてくれない弔くん。

「どうして?」
「…なんでもない奴を喰わせたのに、失敗した」
「いいよ。弔くんのためならなんだってしてあげる」

今まで喰う対象は確かに選んでいた。
個性を人を見下す為の道具にする奴やヒーローだ。
今回の一般人3人は確かに今まで選んでたタイプの人とは違う。
けれど、弔くんの行く道を邪魔する存在なら 全て喰い散らかしてもいい。

「弔くんの邪魔する人なら 誰だって食べてあげるよ。だから、謝らないでね」

学校帰りに買ってきた包帯を彼の腕にくるくると巻いていく。
そんな時テレビ画面が切り替わり、ニュースの速報を伝え始めた。
キャスターは雄英が敵に襲撃されたことを大々的に伝えた。
そして、その敵連合の中に ハートイーターがいるということも。

「メディアはお前のこと大好きだな」
「毎日毎日飽きないよね。まさか、それが…生徒の中に混じっているなんて思ってもいないんだろうなぁ」
「警察の事情聴取も 大丈夫だったか?」

事件のあと生徒は全員事情聴取を受けた。
その時の状況であったり、自分が戦った相手や場所であったり。

「大丈夫だったよ。弔くんが俺に雑魚敵用意してくれてたから」
「切って捨てられるような奴らだ。それで心喰が捜査対象から外れるなら いくらでも」
「ありがとう」

手当を終えて、弔くんをいつものイスに座らせる。

「ご飯食べるでしょ?」
「あぁ、」
「作るからちょっと待っててね」

心喰が作るのは珍しいですね、と黒霧がカウンターの中に入った俺を見て言った。

「こういう時くらいしか弔くんを甘やかすタイミングないし。黒霧も食べる?」
「いただきます」

唯一作れるオムライスを作って、これだけは上手いよなと弔くんが呟いた。

「たくさん練習したからね」

子供の頃。
弔くんに拾われて初めて食べさせてもらったのがオムライスで。
それ以来 俺は大好きになった。
だから、これだけは上手に作れるように練習をしたのだ。

「はい、どうぞ」

出来立てのそれをスプーンですくい、弔くんの前に差し出す。

「流石に、自分で食べれる」
「動かさない方が早く治るよ」
「…ただやりたいだけだろ、お前」

バレてる、と笑いながらダメ?と首を傾げれば 溜息をついて口を開いてくれた。

「弔くんも見てたと思うけど、緑谷とオールマイトには なんらかの関係がありそうだなって思うんだけど。どう思う?」
「先生も可能性は高いって言ってたし、俺もそう思う。けど今は 踏み込むには早すぎると思うから、まだ観察に留めておいていい」
「わかった」

心喰、と名前を呼ばれて また彼にスプーンを差し出す。
文句いいつつも やらせてくれるのが優しいんだよね 弔くんは。

「内部からのセキュリティ干渉はどうでした?」
「まさかやられると思ってなかったんじゃないかな。思いの外やりやすかったよ。ただ、次も上手くいくかと言われると難しいとこだよね」
「…やはり、そうですか」

黒霧は顔を俯かせる。

「とりあえず、仲間が必要だと思う。今後のためには」
「そうですね」
「俺も自由に動けたらいいんだけどね、難しいし」

クラスメイトに不審に思われてはいけないとなると、あまり自由にも動けない。
今回のように完全にクラスメイトの視界から消えることは難しいし。

「あとやっぱり、生徒の存在が邪魔じゃない?人によるけどしっかりと戦える奴も多いじゃん?」
「それはありますね」
「今回の件の経験で ぐんと伸びる可能性があるし。その辺りも考慮にいれておかないと 今後計画を狂わされるかもしれない」

ある程度の成長は見てられるけれど。
全ての手の内を明かしてくれるかというと わからない。
みんなの全力を見れる機会があれば いいんだけどな。





臨時休校が明け、また再開した学校。
HRで教室に入ってきたのは包帯男みたいになったイレイザーヘッドだった。
弔くんも重傷だけど、彼もまた重傷だったのだろう。
あの対オールマイト用の脳無と戦ったのだから仕方ないけど。

「先生無事だったのですね!」
「無事 言うんかなぁアレ…」
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」

後遺症が残るとかいう話も聞いたし、それの程度がわかれば今後のためにはなるかもな。

「雄英体育祭が迫ってる」
「「クソ学校っぽいの来たぁぁあ!!」」
「待って待って!敵に侵入されたばっかで大丈夫なんですか!?」

イレイザーヘッドを眺めながら今後のことを考えていたせいで聞き逃した。
急に騒がしくなった教室に首を傾げる。

「逆に開催する事で危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何よりうちの体育祭は最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ」

体育祭。
そういえば毎年テレビで中継してたな。

「当然 名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計3回のチャンスだ。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ」

体育祭 辞退することってできんのかな。
正直、メディアに出ることは連合の今後の為にはならない気もするし。
とりあえず弔くんに相談した方がいいかな。





「体育祭?」

帰ってきた心喰は学校でのことを報告したあと、その話題を出した。

「俺、メディアには出ない方がいいかなって気もするし」
「メディアに出ないに越したことはないけど、体育祭を辞退する方が怪しくないか?」
「それは確かにそうかもしれないけど」

心喰の事件に目撃者はいない。
だから、メディアに出たところで 彼がハートイーターだとバレることはない。
だが、彼は元から裏社会にいる人間ではない。
確かに戸籍があったし、親がいた。

「弔くん?」

首を傾げ俺の顔を覗き込む彼の頭を撫でる。

「周りのやつらがどれだけ戦えるかわかるだろうから、よく見てこい」
「わかった」

霧矢心 という存在に疑問を持つ人間がいてもおかしくないだろう。
ともなれば、彼の偽装戸籍の裏をしっかり作らなければ。


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