昔話

「ねぇねぇ、彪吾さん」
「なんだよ。さっさと、課題終わらせろ。俺が教えてやってんだから」
「うっ…」

課題を教えてくれ、とラボに彼が来ることは決して少ない事ではない。
三輪には内緒で!と言うところを見ると バレたら人様に迷惑をかけるなとか怒られるのだろう。
食事の間だけな、とラウンジに彼を連れ出したはいいが その手はすぐに止まる。

「うーん…」
「またわかんねぇんか」
「いや…はい」

集中力がないことも原因だろうが 驚くほどに頭がよろしくないから仕方ない。

「これは、さっきの応用だろ。2個前の問題」
「これ…?あ、じゃあ…こうか?」
「そうそう」

かりかりと動くペンを眺めながら、残りわずかだったコーヒーを喉に流し込む。

「彪吾さんってさー」
「おい、集中力…」
「ごめんなさい。けど、気になっちゃって。彪吾さん、苦手なものってないの?頭も良いし、戦闘も強いし…生身でも、体ムキムキじゃん」

苦手なもの?と首を傾げれば 彼はこくこくと力強く頷く。

「嘘付く奴?」
「あー、見えちゃうもんね」
「あとはなー…なんだろ」

思い付かない、と言えば つまんないと彼は言う。

「あ!彪吾さん!お久しぶりです!!」
「げっ」
「ん?」

駆け寄ってきた嵐山や眉を寄せる。
にこにこと笑い やっと会えた!元気ですか!と目の前に蛍光色の太文字の感情が流れる。

「全然俺と会ってくれないじゃないですか!」
「いや…お前忙しいし…」
「彪吾さんの為なら予定空けますよ」

いや、空けなくていいと項垂れある俺を 米屋が物珍しいものを見るように見つめていた。

「言い忘れてた、米屋」
「あ、はい!?」
「こいつ」

俺の苦手なやつ、と指差せば 酷いですと嵐山が笑顔で言う。

「お前の感情は邪魔なんだよ」
「どういうことですか!」
「フォントが太い!うぜぇ!視界が狭いんだよ」

嘘をつくやつは嫌いだ。
だが、彼ほど真っ直ぐだとそれはそれで 面倒なのだ。
口に出す言葉がそのまま 太字のしかも蛍光色の太文字のフォントで目の前に現れる。
とりあえず、邪魔で仕方がないのだ。

「彪吾さん、いつもそう言って 俺には構ってくれないですよね」
「俺にも好き嫌いあんだよ」
「嵐山さんのこと嫌いな人なんているんだ…」

キラキラし過ぎてて、と呟けば 米屋は それはまぁわかりますと笑った。

「あと、嵐山んとこの女の戦闘員が 相性悪い。佐鳥はうるせぇし。…まぁ、そう言うこと」
「納得。」
「充はいいんですね」

アイツはいい子だろ、と言えば 俺もいい子ですよと 嵐山が笑う。
だから、そう言うとこだよと 目の前にある感情を 意味ないとわかっていながら手で払った。

「勉強教えてたんですか?」
「飯のついでにな」
「俺もいいですか?ちょっと、大学のレポートで詰まってて」

お前は自分でなんとか出来るだろ、と言うが 聞いちゃいないのか 勝手に席に座り始める。

「強引」
「そうでもしないと、彪吾さん俺に構ってくれないので」
「腹立つなー、その笑顔。お前が人の悪口とか少しでも言ってくれりゃ好感持てんのに」

嵐山は本当に真っ白なのだ。
太陽に愛された男。
俺のように 日陰者には 相応しくない。

「これなんですけどね、」
「無視すんな」
「彪吾さんがペース乱されてる…」

だから嫌なんだよ、と項垂れる。
それでも 勝手に話す嵐山を黙らせるには 彼の目的を果たしてやる他ない。

「ここまでは、なんとなくうまくまとまったと思うんですけど。ここからが、どうにも…」
「あと何書きてぇの?」
「これと これですね」

ざっと目を通してから、米屋のペンを勝手に借りて 彼のノートに書き込みを入れる。

「文章の流れ的に、これ入れんなら ここだろ。最後に持ってくんな。で、これは 自分の意見交えながら 最後に持ってこい」
「なるほど」
「で、頭のとこ薄過ぎだし、まとめと繋がってねぇから 再考しとけ」

わかりました、ありがとうございますと彼は綺麗な字をノートに書き込んでいく。
黙ってりゃ、可愛げがあるんだが 口を開くと面倒なのだ。
画面越しに眺めてるくらいが 丁度いい。

「そういえば、柿崎が会いたがってましたよ」
「あぁ、そういや最近会ってねぇな…」
「自分から会いに来るようなタイプじゃないですもんね」

意外と顔広いですよね、という米屋の言葉にそこそこに古株だからなと答える。

「そこそこって。古株中の古株じゃないですか」
「そういや、入隊っていつなんすか?」
「前ボーダー時代から」

なんでボーダーに入ったの?という質問に首を傾げた。

「別に、これっつー理由はねぇかな。俺を引き取った人が 旧ボーダーの人だったっつーだけで」
「うぇ!?そーなの!?」
「知らなかったか?」

全然!と2人が首を横に振る。

「彪吾さんって基本的に秘密主義じゃないっすか?」
「いや、別に」
「嘘だー!」

わざわざ話す必要ねぇだろ、と言えば そうかもしれないけど と米屋が肩を落とす。

「聞かれりゃ答える、ある程度」
「じゃあ!ずっと聞きたかったこと、いいですか!!」
「いーけど」

なんでアイビスであんな戦い方してんですか、と片手を上げたまま聞いてきた彼にあぁ、とだけ返した。

「いや、あぁって…!」
「嵐山って知ってたっけ?」
「ちょうどその時期入隊してるので、見てましたよ」

そういやそうか、とまだ手に持ったままだったペンで 米屋のノートの端に 簡単なアイビスを書く。

「絵、上手い…」
「開発者だかんな?俺。見た目のデザインも俺と東さんなんだから、そりゃ描けるわ。なんだっけ?えっと、アイビスは、威力メインの狙撃銃だろ?そこに重きをおくと どうにもこうにも 射程も弾速も出ねぇの」
「今もそうっすよね」

昔はもっと酷かったんだよ、とアイビスのイラストの横に書いた 射程 弾速の文字に×をつける。

「本当に最後までポンコツな銃で、開発も長引いて。試作のアイビスで戦闘することが多かったんだよ。けど、狙撃銃としては全く役に立たねぇし、戦闘中威力だけでも生かそうっつーんで、接近して撃ってた。最初はトリオン兵に対してそうやってたんだけどな、」
「なんかの時、太刀川が彪吾さんを怒らせて。額を至近距離で撃たれたんだよ。それ以来は あぁいう戦い方よくしてましたよね?」
「意外と楽だろ。威力強いから ほぼ一撃必殺だし。結構トラウマになるらしくて、あの太刀川ですら 2週間くらい近付いてこなかった」

そんな理由だったの、と目を丸くしてる米屋に くだらねぇだろ?と笑ってやる。

「まずもって、あのアイビス片手に走る彪吾さんが有り得ないですけどね。普通なら反動で体持っていかれますし」
「そこは、生身の鍛え方によるだろ」
「レイジさん以上の筋肉お化けっすもんね、彪吾さん…」

みんな最初真似て、重さで諦めていったんだよと嵐山が付け加える。
そういやよくみんな真似してたな。
で、それを忍田さんがよく怒っていた。

「まぁ、オススメはしねぇな」
「されてもできないですよ」
「けど、普通の狙撃は?出来るんすか?」

出来るけど 個人的好かん、と言えば 2人とも首を傾げた。

「それは俺も初耳です」
「狙撃手は環境に左右されるだろ。射線が通るかとか、高い建物あるかとか。そういうのはめんどくせぇし。当たるかわかんねぇ無駄弾撃つんなら、至近距離で確実に撃った方が早いだろ。威力も近い分 あるわけだし」
「…彪吾さんならでは、だね」

そういうこった、と米屋にペンを返し、立ち上がる。

「今日の話はここまで。そろそろ戻るわ」
「あ!!勉強!!」
「嵐山にでも教えてもらえ。お疲れさん」

今度ご飯行きましょうね、と笑った嵐山に お前とは勘弁してくれと 手を振り 背を向ける。
だが、そうか。
アイビスの開発当時のこと、知らない人が大半か。
それはイコールで、玄野隊を知らない人が増えてきたということ。
まぁ、いいことだ。
過去の産物を、より過去に追いやり 蓋をした方がいい。

「あ、おかえりなさい。珍しく長い休憩でしたね 彪吾さん」
「米屋と嵐山と話してた」
「嵐山は、珍しいですね」

相変わらず目の前チカチカすんだよ、と寺島の隣の椅子に座る。

「お前も、あの頃は痩せてたよな」
「昔話でもしてたんですか?」
「あぁ」

彪吾さんはもうちょい 怖かったですよ、と寺島は笑った。

「なにが?つーか、どこが?」
「学ランオールバックだったんで。初めて声かけられた時 ビビりました。私服も 厳つめだったし…」
「あぁ…そういや、私服とか ここ最近着てねぇわ」

カッコ良かったですけどね、と彼は言う。

「お前も私服最近着てねぇだろ」
「それはもう。見ての通り」
「まだ入んの?」

ちゃんと入るの買いましたよ、と彼は項垂れる。
凄いスピードで太ったもんな、寺島。

「今度、私服で飲み行くか」
「あ、いいですね。誰誘います?」
「諏訪とか冬島さん?東さんも来るだろ」

いつものメンバーですね、と彼は言う。
まぁ、確かにいつものメンバーだな。

「酒飲める奴少ねぇしな」
「そうっすね〜。とりあえず、諏訪あたりに話しときます」
「テキトーに任すわ」


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