21歳組と飲みに行く
エンジニアには沢山の依頼が寄せられる。開発部門での依頼であったり、トリガーの調整であったり。
時にはぶっ飛んだ依頼も来るわけだが、その依頼を対応するのもエンジニアの仕事であった。
俺がチーフエンジニアになって間もない頃、その依頼の中で1つ目を引くものがあった。
「低トリオンでも 遊べるようになりたい」
決して綺麗とは言えない字。
依頼というよりは願望のような 悪戯のようなその依頼書を俺は受理した。
そして、出会ったのが彼。
「彪吾さん!!」
「おー、米屋か」
米屋陽介。
今は三輪の部隊の攻撃手をしているらしい。
そして、控えめに言っても バカだ。
「槍の調子は?」
「さいっこー」
「そりゃ、よかったな」
依頼の受理の後、顔を合わせた彼は ガキんちょ中のガキんちょ。
何をどうしたいとか、どんな武器がいいのか何も決まってなくて。
ただ、低トリオンでもトリオン能力のある人たちを しっかり遊びたい。
対等に、戦えるようになりたいという酷く漠然としたものだった。
彼の考えを読み解き、形にするのには苦労したものだ。
「何してんすか、こんなとこで」
「あぁ、待ち合わせ」
「へぇ、珍しい」
てか、聞きましたよと彼は笑う。
「菊地原ボコボコにして、風間さんに頭下げさせた、とか。太刀川さんボコボコにしたとか。忍田さんと互角に戦ったとか」
「なんだそれ」
「最近本部で流れてる噂」
尾ひれ背びれが付きに付きまくった噂に、めんどくせぇと呟く。
だから今日は視界が煩いのか。
「風間が頭下げたんは侵攻の時ご迷惑をおかけしましたっつー謝罪。菊地原は確かに倒したけど、ボコボコにはしてねぇ。太刀川に関して言やぁ、ガン無視してたから何もしてねぇ。忍田さんとは共闘したが、戦っちゃいねぇ」
「……ほとんど間違ってないじゃん」
「いや、どこがだよ」
米屋は彪吾隊解散後に入ってきたが、珍しく俺の彪吾隊時代のことを知っている。
槍の開発で戦闘相手を俺がしていたから なのだが。
「ね!待ち合わせまで暇なら模擬戦しましょ!俺、少しは強くなったよ」
「あー…めんどくせぇ。これ以上噂が増えたら煩くて堪らん」
「えー!」
そこをなんとか!と俺の手を掴む彼からは戦いたい戦いたいと その感情だけ発されて 視界の中がその言葉で埋まる。
「何してんの、槍バカ」
「お、弾バカじゃん」
戦いたいの弾幕の中に 弾バカだ 戦うの弾バカでもいいかな と現れる。
「つーか、誰。その人」
「太刀川さん倒したって噂の人」
「え、!?実在したの?!」
太刀川さんどうやって倒したんだろう どの隊の人? てか、見たことなくね?と弾バカと呼ばれた奴の感情も視界に増えていく。
「だから、倒してねぇって言ったろ。バカなのか?さっき、何聞いてたんだ、お前は」
「けど、実際倒せるっしょ?」
「あいつも強くなってんだろ」
最後に戦ったのは まだ俺が戦闘員だった頃だ。
俺の地位が上がったのと同じで、彼も順位を上げている。
あいつも成長していて然るべきだ。
「そーだけど…」
「ま、いって 8-2くらいだろ」
「2本は取れると思ってるんですね」
弾バカくんの言葉に首を傾げる。
「まさか。あいつも2本くらいは取れるようになってんだろって 言ってんの」
「は?いやいやいや、個人ランク1位ですよ!?」
「そーかい」
嘘だろ。
この人なんなんだ、と?が増える弾幕から視線を逸らして 彪吾さんが絡まれてる という言葉を投げてきた奴の方を見る。
「おい、遅ェぞ。諏訪」
「げ、バレた」
「バレねェと思ってたんか。俺相手に」
じゃあ、来たから行くなと彼らに伝えれば えー!も米屋が声をあげる。
「うるせぇよ。じゃあな」
カチューシャで上げた髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜてやれば ボサボサじゃんか と彼がカチューシャを外す。
長い髪が顔にかかり、こっちの方が可愛いのにもったいねぇなと 内心考えた。
「なぁに」
「ん?下ろしてる方が俺好み」
「はっ!?」
真っ赤になった顔と 忙しく動き回る彼の心の中。
「じゃあな。そっちのガキんちょも」
「ガキんちょ!?」
諏訪に歩み寄れば どこ行きます?と彼は首を傾げる。
「ま、いつもんとこでいいだろ」
「風間と寺島も来るって言ってました」
「そーか。木崎は?」
中坊のおもりやってるんで、厳しいかもしれないっすねぇと彼は言う。
中坊のおもりなんてしてんのか、あいつ。
「けど、来たいとは言ってたんで。来るかもしれないっす」
「そーか」
いつものとこでいいんだろ、と本部から出て冬模様に変わった街を歩く。
「で、米屋と何話してたんすか?」
「本部に広まってる噂のこと」
「あぁ、風間に頭下げさせたとか?そういう」
お前も知ってんのか、と言えばまぁと彼は笑う。
「風間が彪吾さんに頭上がらないのなんて、今に始まったことじゃないし なんとも思ってないっすけどね」
「年功序列に従ってるだけだろ」
「いやいや、まさか」
なんでこんなに鈍感なんだろう。
こんなに慕われているのに、いつもそうだ。
視界に流れる諏訪の言葉に少しだけ 笑いそうになるのを我慢して。
隣を歩く燻んだ金髪の頭を撫でた。
「ちょ!?なんすか!?」
「いーや。お前も可愛らしいなァと思っただけだよ」
▽
いつもの居酒屋。
ウイスキーをロックで飲んで、いつもに比べて表情を緩めている彪吾さんに視線をやる。
「どした?」
「いや、この間の…隊服なんだったのかなぁって」
「あ、諏訪は見たのか」
聞きにくくて、聞かずにいたこと。
気になっていることはきっと彪吾さんには筒抜けだっただろうけど 触れずにいたところを見ると俺が切り出さなければ話す気は無かっただろう。
寺島が俺も見たかったな、と呟けば お前はいいだろと彪吾さんが笑う。
「いや、彪吾さんが着てるってとこが重要なんで」
「え、雷蔵知ってんのかよ」
「ここで知らないのはお前だけだ、諏訪」
はぁ!?まじ!?と大きくなってしまった声。
うるさい、と呟く風間を無視して彪吾さんに視線を向ける。
「お前が入って来る前。玄野隊っつー隊を組んでて。寺島はその時の隊員」
「……まじ?」
「マジマジ。まぁ、隊は解散して 彪吾さんがエンジニアになって。俺は少しの間ソロで動いてたけど、やりたいことがあって彪吾さんの後追いかけたんだよ」
だから2人は仲良かったのか、と聞けば妙に納得した。
彪吾さんに会ったのも 思えば雷蔵の紹介だったし。
俺より先に入ってる風間が知っていてもおかしくはない。
「で、そのチームがA級2位と…」
「そーいうこと。1位まであと少しだったんだけどね」
「そんな強かったのに、なんで解散なんて?彪吾さんまだまだ現役で戦える感じしましたよ」
俺の言葉に風間もそれは自分も思います、と同意を示す。
対して、雷蔵と彪吾さんは意味ありげに視線を合わせ そして含みのある笑みを浮かべた。
「なんすか、その2人の秘密みたいな雰囲気」
「強ち間違っちゃいねぇよ。俺と寺島以外、知る必要のねぇことだ」
「うちの隊の問題だからね」
風間も不服そうな顔をした。
だが、それ以上踏み込むことを 彪吾さんの目が許してはくれなかった。
遅れてやってきた木崎も混じり、みんな何杯目かもわからぬ酒を煽った。
そろそろ帰るか、と言い出したのは誰だったか。
眠ってしまった風間を木崎が背負い、俺も同じ方向だからとそちらに向かう。
「じゃあ、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。後輩に奢らせて悪いな」
「いや、お礼だったんで。その節はありがとうございます」
いーえ、と彼は笑って、雷蔵と話しながら歩き出す。
その背中を見ながら 2人が同じ隊服を着ていたのかと なんだか言葉にできないモヤモヤが胸につっかえた。
「彪吾さんってどんな隊長だったんかな」
「…凄い人だったぞ。あの人の戦い方は真似たくても真似できん。あの人自身の強さも然り、人を使うことにも秀でていた」
「……見てみたかったなぁ」
そうだな、と彼は寂しそうに呟いた。
▽
「隠さなくて良かったんですか」
「別にいんじゃねぇ?お前の大事な友達だろ」
隣を歩く彼は さっきまでウイスキーのロックを水のように呑んでいたとは思えないほど素面だ。
俺もまぁ強いけど、この人は桁違いだ。
「…俺、今でも思いますよ」
「何を?」
「解散したくなかったって」
そーかい、と彼は困った顔をして笑った。
「悪かったな、俺のワガママに付き合わせちまって」
「あいつ、今どうしてますかね」
「あー…お前、知らねェのか。いや、俺が言わなかったのか」
彪吾さんが急に足を止めて、追い越してしまった俺が同じように足を止め、振り返ればあの時見た彼と同じ目をしていた。
「あの後すぐに行方不明に なったよ」
「は…?」
「行き先は、恐らく…近界だろーな」
頭を殴られた気分だった。
ほろ酔い気分なんて吹き飛んだ。
「ちょ、待って…本当に言ってるんすか!?」
「冗談にしちゃ、笑えねぇだろ?」
「……持っていったんですね」
だろうな、と呟き 彪吾さんが歩き出す。
「…大馬鹿野郎だよ、あいつはさ」
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