東と約束をする
「玄野彪吾。全ポイント剥奪及び玄野隊無期限活動停止を命ずる」司令室で自分に言い渡された辞令。
ざわついた部屋の中、恐らく俺が1番冷静だった。
「マスターポイントまでポイントが増えた後、玄野の態度等を鑑みて活動許可を出す。異論はないな?」
「隊は解散させる。俺自身、戦闘員を続けるつもりはねぇ」
おい、待て!と声を荒げたのは東さんだった。
「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「東さん、そっちはアンタに任せるよ」
「彪吾。…A級2位だぞ?自分の立場をわかってないのか?」
東隊にはいつまで経っても勝ち越せなかったが、最近は6-4くらいまで接っていた。
最後くらいは勝ち越したかったが、仕方ないな。
他の上層部の人間も同じ意見のようだ。
そこまでする必要はない、と彼らは口を揃えて言った。
彼らにとっても 玄野隊は失いたくない戦力。
だからこその、この対応だったのだろう。
「もう玄野隊はありません。玄野隊は誰になんと言われようが解散します。最初から、決めてました」
失礼します、と頭を下げて司令室を出れば俺を追ってきたのは東さんだった。
「何考えてんだ、お前。なんで、あんなことしたんだ」
「東さんには関係ない」
「関係ないって、彪吾…」
どうして。
なんで。
他に方法があるだろ。
そんな彼の動揺をただただ眺めていた。
冷静な彼にとって、俺の隊の解散がそこまで衝撃を与えるとは思ってもいなかったし。
「ま、戦闘員退くことは前から考えた。ちょっと急に決まっちまったけどな」
「これから、何をする気だ?」
「エンジニア。そっちの方が性に合ってる」
何か言いたげな彼の背を俺は思いっきり叩いた。
トリオン体だからきっと彼に痛みはないだろうけど。
「狙撃銃、急ピッチで完成させる。試作段階のバグもあるしな。」
「…なぁ、お前がそっちに行く必要ないだろ。まだ、若い。俺よりももっと、未来がある」
「トリオン能力の未来ってこと?」
そうだ、と彼は頷いた。
「そう変わらねぇよ。どっちも、衰えてく。けど、アンタの戦術は衰えねぇ。人に教える技術だって、間違いなくアンタの方がある」
「…お前だって、」
「適材適所っつーだろ、東さん。なんなら、俺がアンタの未来を作ってやっから」
思い返せば、東さんとの関係が変わり始めたのはあの頃からだった。
数日毎にラボに顔を出すようになったし、頻繁に連絡が来るようになった。
ご飯を食べに行ったりするのも、2人で行き始めたのはあの頃からだった。
あの人の側は心地よかった。
あまり多くを語らない心。
表情と心がしっかりと繋がっていた。
いつもよりすっきりした視界が好きだった。
俺を可愛がってくれていた。
けど、それは 執着からくるものなのだとわかっていた。
「彪吾、」
「あれ、東さんじゃん。今日休みじゃなかった?」
咥えてた煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
「院の課題に使う本を忘れてな」
「珍しいこともあるもんだな」
人ものが欲しくなる、失くしたものが 惜しくなる そんな子供みたいな執着。
「どこか出かけるのか?」
「探してたもんが見つかったから。取りにな」
「そうか」
そして、その執着は いつしか形を変えていった。
誰にも渡したくない。
自分のそばに置いておきたい。
彼の中に生まれたそんな感情。
それは、恋と呼ぶには捻くれた 想いを彼の中に作り出した。
「なぁ、東さん」
「どうした?」
「もし、俺に心が見えなかったら…」
それに絆された。
恋愛なんて 可愛いもんじゃないけど。
俺にとって 東という男は特別だった。
キスしたいとかセックスしたいとか そういうのはない。
ないけど、彼を誰かに渡したくはなかった。
「俺に好きだって、言ったのか?」
見開かれた彼の目。
あぁ、珍しい顔を見た。
バレてるのはわかってたけど。
口にするとは思わなかった。
なんで急に?
今更すぎるだろ。
動揺したのか目の前に弾幕が流れていく。
東さんでも、こうなんのかと思ったら 少し笑えた。
「なに、笑ってるんだ…」
「冗談だよ、冗談。ちょっとからかってみたくなっただけ。悪ぃな」
ハハッと笑いながら、心臓に悪いことをするなと項垂れる彼を見つめた。
「…言わないさ、きっと。どうにか、なりたいわけでもない」
「東さんなら、そうだと思った」
煙草を灰皿に擦り付けて、ありがとうと 笑った。
「は?」
顔を上げた彼。
目を閉じて、東さん と彼の名前を呼んだ。
「俺もだよ」
「彪吾?」
「俺も、アンタと一緒だ」
どうにかなりたいわけじゃない。
死にゆく人間が、未来のある彼と繋がるべきではない。
けど、もしも そうじゃなかったら。
俺はアンタに、好きだと伝えたのかもしれない。
目を開いて、?を浮かべる彼の背を力いっぱい叩いた。
「生身だから、痛いんだけど」
「たまにはいいだろ、生身の痛みもさ。麻痺ってんじゃねぇかと思って」
「そんなわけあるか」
最期に会いたかった。
けど、会いたくなかったな。
「東さん」
「なんだ?」
アンタと歩む未来ってのも、悪かなかったと思うんだ。
寺島と開発しながら、風間や諏訪と飲んで、影浦と米屋を甘やかして。
時々三輪と迅を心配して。
もっと時々太刀川を相手にしてやって。
みんなで麻雀しながら、飲んで、戦って、笑って、悔しんで。
そんな、毎日を続けても 悪かねぇと思ってたんだ。
それでも、忘れられない。
毎日毎日、彼女が語りかける。
許さない。
どうして殺したの。
好きだったのに。
彼に、会いたい。
お前のせいだって。
背負わなきゃなんねぇと思ったよ。
俺が、招いたことだから。
アイツが死んだのは、俺のせいだから。
他に方法があったかもしれない。
いや、絶対にあったんだ。
過去を何度も悔やんだ。
けど、悔やんだところで、変わらねぇとわかってるから。
前を向くしかなかった。
この後悔を、どうするか。
それの答えが、これだった。
「来世は、結ばれたらいいな」
俺の言葉に彼は笑った。
「そんなの信じてるのか?」
「まぁ、あったら面白ぇなと 思う」
声を出して笑った彼が、愛おしそうに目を細めた。
「だったら、来世で。好きだと伝えるよ」
「…楽しみにしてる。そしたら俺も、アンタを好きだって 伝えるから」
そうか、と彼は恥ずかしそうに笑った。
「さ、変な話はここまでだな。そろそろ行くわ」
「お前が始めたんだぞ?」
「悪ぃ悪ぃ」
へらへらと笑って、新しい煙草に火をつけた。
「じゃ、またな」
片手を上げた東さん。
またな、と同じように俺も手を上げた。
「また、」
来世で会おう。
心の中で伝えた言葉が、彼に届かなくてよかった。
▽
「あ、お疲れ様。東さん」
本部で偶然会った迅がひらひらと手を振った。
「お疲れ。本部で仕事か?」
「うん。ちょっと、彪吾さんに用があって」
「彪吾なら出掛けたぞ?探してたものが見つかったから取りに行くって」
俺の言葉に迅が目を見開いた。
「どこに行った!?」
そして、俺に掴みかかり声を荒げた。
「どこって、知らないけど。どうして」
「ダメだ!彪吾さんが、死ぬ!!」
迅の目に涙が浮かぶ。
昔は懐いてたのに、いつからか迅は彪吾を避け始めた。
それを俺の死を見たからだと彼は話してた。
「探して。追いかけなきゃ」
迅の慌てようで、嘘じゃないことはすぐにわかった。
あの変な話は、そういうことだったのか。
彼の電話にかけるも 聞こえるのは無機質な電子音だけ。
迅はトリオン反応を探させているようだが、見つからないらしい。
「アイツが、作ったシステムだ。見つかりはしないだろ」
「どうしよう、」
「死に場所は、どこだ。そこへ行こう」
俺の言葉に迅は首を横に振った。
「わかんないんだ。知らない場所」
「…知らない、場所」
とりあえず 人が必要だ、と上に連絡を入れて 捜索に当たれる隊員を借りて 俺たちも外へ出た。
彪吾の行きそうな場所を探しながら、走り回って。
けど、彼の姿は 見つけられなかった。
そんな時、鳴り響いたサイレン。
ゲートが複数個発生したことを、内線が伝える。
『東さん、』
そして、その内線の声が 寺島の声に切り替わる。
「寺島?彪吾が行きそうなとこ、思い当たるとこないか?お前なら、わかるだろ」
『……もう、手遅れです』
「なんで!?」
彪吾さんは、ゲートをくぐりましたと 彼は声を震わせて 言った。
「…どういう、」
『ラボに、来てください。彪吾さんの』
彼の声は、涙を堪えていた。
『止めれなかった、』
寺島の声が 痛々しく 突き刺さった。
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