知れば知るほど遠くなる
車に乗り込むと、大きく息をつく。
疲れたと言わんばかりの私に、少尉が気遣うように笑う。
「未来ある若者達でしたね。」
「そうだな、期待できる火のついた目をしていた。」
2度としたくない経験だが...と続けて、ここに来る前、なまえに言われた言葉がよぎる。
『希望は叶う。...でもナイフがあるから...何かしらのトラブルがあるみたいです。』
「ホークアイ少尉...なまえの言葉を覚えているか」
「え?たしか...希望はあるけど、トラブルが、と言っていた....。.....!」
驚いて言葉を途切れさせた少尉は目を見開く。
「確かに、私たちの目的である"新しい錬金術師"は見つかった。そして、ある意味、色んなトラブルにもぶつかったな...」
「ですが...まさか!たまたまとは考えられないですか」
「キミからの報告や、彼女の様子から、なまえが私たちにとって危険ではないと判断した。しかし、彼女が確かな人物でないこともまた真実だ」
他に君が生活して気になったことはないのか?そう尋ねると少佐は少し考える。
「関係があるかわかりませんが...」
「なんでもいい。」
「なまえは木の棒を肌身離さず持っています」
「.....は?」
彼女の言葉に思わず力が抜けたように返してしまう。
「確かにどこにでもありそうな木の枝...のように感じます。ですが、"出会った時は既に"彼女は持ってたようで。」
「なにか意味があるのか...?形見...とは考えられないだろうな」
なまえの初めの姿から、木の棒がまさか形見になる生活をしていたとは思えない。
「箸のように先は細くなっていますが、細くはないので武器には成りえないと思うんですが...」
「うむ...直接聞くしかないだろうな」
彼女はたまに、突拍子のないことを話す。きっとそれにも何かしら意味はあるのだろうが、考えつくとは思えない。
.....
「お疲れ様です。おふたりに伝言預かってますよ。なまえさんから『帰ってくると聞いたので、お茶菓子を買って先に家にいます。』との事でした、おふたりのどちらでも、に伝えればわかると言われたんですが...」
帰ってくると、受付嬢からなまえからの伝言を受け取る。
「そうか。ありがとう。」
帰ってきたら話そうと私が伝えたことを覚えており、そして話すと長くなるということだろう。
「彼女、さっき帰っていたので。今から追いかけても、買ってきた彼女とすれ違うと思いますよ」