錬金術

「動くんじゃねえ!この女殺すぞ!」

なぜこんな事に?頭の中で考える。私はただ、お茶菓子を買って、話をどう伝えるか考えて歩いてただけ。

"確実に追っ手は来ない"ことに対して、自分には危害がないと安心していたのかもしれない。ここだって、紛争を繰り返している治安が悪い国なのに。まあ、まさかマグルに捕まるなんて、過去の自分には想像も出来なかったが。(ただし過去なら、マグルに真正面から会うこともなかった)

中佐と同じく青い軍服をきた見覚えはない男性達が、私を捕まえている男が私のこめかみに当てている、"筒のようなもの"と似たようなものを、この彼に向けている。

向けているのだから、きっと武器なんだろう。でも筒がどうなるのか_もしやあれが吸魂鬼のように命を吸うのか_
(助けようとしていると思ったけど、私も命吸われる危険があるかしら。)

首に回された腕に力が入り、男の何とか逃げたい気が焦っている様子が伝わる。


「落ち着きたまえ」

考えを巡らせていると、私服姿の中佐が人ごみから現れた。帰ってきたのか。

「うるせえ!誰だてめえ」

この男性の意識が中佐に向いた瞬間、彼の視界とは別の方向で何かが弾ける音がして、気づけばその時には男性の手から血が流れ"筒のようなもの"は吹き飛んでいた。

「くそお...!」
「さて、ゆっくり話を聞こうか。」

私を突き放して、走り出す男性に向けて、手袋をした中佐が指を鳴らすと、イナズマのようなものが走り、彼が燃えた_とは言っても、目を回してる様子から彼と言うより彼の周りが燃えて驚いたのだろう_。
動けなくなった彼はそのまま連行されていく。

足元に落ちているそれを拾って眺める。いくつか疑問はあった。あの男性の手を怪我させたものは何だったのか。そして、中佐が見せたアレは...魔法?だけど彼は魔力をコントロールする杖を持っていない...。

「それ、貰ってもいいかな」
「あ、はい。」

中佐は、私の持っていたそれを軍服の男性にそのまま渡した。

「怪我がなくて良かったわね」

後ろから、少尉が歩きながら、"あの筒"を持っているのが見えた。

「助けていただいてありがとうございました......。さきほど、中佐の"アレ"は?一体...?」

ああ、と中佐は手袋を取り外しポケットにしまう。

「キミは初めて見たのかな、錬金術だよ。」
「錬金術...」

私が知りうる錬金術師は、ニコラス・フラメル。賢者の石を作り出したかの人が、私の世界での唯一だ。


「ちなみに...、少尉が持っているその筒は一体なんですか?」

あの人たちも持ってましたが...そう続けると固まる二人の表情に、内心で舌打ちした。

しまった、これは"マグルの常識"だったか。

「これは拳銃よ。当たれば、鉛が体を貫くし、人を殺すこともある。錬金術が使えない私には、最大の武器になるわ。」


『本当に、魔法が使えない人間マグルは僕達以下なのかい?魔法以外の方法が世界中沢山あることを君も知るべきだ。』

(世界はとても広いことをいま感じてるわ、)

「さてここは片付いた、戻ろうか。」
「はい。お茶菓子も買ってますよ。」