新天地
ぐらりと、なまえはレンガ造りの建物の間に足をついた。
周りを見渡すと、ガタガタと走るクルマと、明らかに文化が違う雰囲気の街。
マグルの街...?握っていたネックレスは消えてなくなっている。
「あれは...ポートキーだったってこと?」
「足元に気をつけて歩きなさい。躓くことはあっても、人は歩かねばならんからの。」
ダンブルドアが言いたかったのは、これか!
毎日私を観察できただろう、あの天才には、私があの世界に飽き飽きしていたことが伝わっていたか。
しかし、と見渡せば街中を歩く青い服を着た男達。マグルの学生服、ということは無いだろう……、雰囲気の厳つさ、もしかしてあれは何らかの戦力としての所属を示している?
「マグルの街ってこんなに物騒なわけ?」
ハッとして、なまえはマントを脱いだ_ホグワーツで聞いた、マグルは普段着としてマントを着ない_。
脱いだマントをカバンに入れようと視線を落とした時、前に現れた人の影。
「大丈夫ですか、
「え?」
視線を上げると表情は優しい黒髪の男性、服はやはり青いあの服。
「なにか、あなたがお困りのように見えたので」
優しげな表情、でもその視線の鋭さは私も見てきた。_戦場に立つ人の目だ_
そして彼の後ろに車のそばで待機する女性の姿_例に漏れず彼女も青服だ_が見えた。彼を待っている様子でこちらを伺っている。
「いえ...あの...」
「はい」
「この街に図書館はありますか?」
この辺りは初めてで、そう笑うと男は一瞬見せた訝しむ表情を隠し、「ああ、それなら」と続けた。
意図したところではなかったが、魔法界から出れたなら好都合だった。
先ずは、ここがどこでどういう街なのか調べなければ。
私は東の果て、独自の魔法学校を持ち、唯一イギリス魔法界の影響を受けていないニホンに逃げる算段でいた。
見る限り、この街はどう考えてもニホンではない。まだここが欧米であるならば...ここは安全な場所ではない。
自分が逃げたことが公になれば、すぐさま殺される側に立つことになる。
男に案内された図書館で、この地域のことが書かれた本はないかとカウンターで尋ね聞いた情報から地図に観光、歴史、食事、色んな本を広げて行く。
(どういうこと)
見覚えのない地図にまず思考が止まった。拡大地図を見ても、私の知っているものでは無い。
欧米どころではない、ここは..._信じたくはないけど_私のいる世界ではない。
「すみません、そろそろ閉館なので……」
「あ、分かりました。」
ふう、一通り目を通してしまったそれらを閉じて、たくさんの文字と絵に疲れた目を閉じた。
どうせ捨てるつもりだった。それはそれでいいか。親も、知り合い(友人と呼べる人は元々いない)も。
ここは、アメストリス。そして、この街はイーストシティ。私が新しく生きていく場所だ。
「ありがとう。」
片付けを手伝ってくれたスタッフへ一言声をかけ図書館を出た。いつの間にか暗くなった通りを、自分のわかる情報を整理しながら抜ける。
(この国は周辺国と小競り合い、そして大きい戦争を繰り返してる軍事国家。)
大きな時計台のそばで、さてこれからどうするかと今度は自分の事を振り返る。なまえは、自分がほとんど着の身着のままで着てしまったことに気づいていた。
本当は、あのままマグルのこいんろっかーに隠していたマグルのお金を持って逃げるはずだったのに。
今持つバックの中には、少しの着替えと移動のために入れた箒のみ。教科書は捨てたし、フクロウは逃げるのに不要と学校から出てすぐ逃がしてきた。
箒を売る?でもマグルで箒は使わないと聞いていたけど……。
「奇遇ですね」
話しかけられ、振り返るとあの時の男だった。
「この時間に女性が歩き回るのは関心しませんよ。この街はまだ安全とは言えない。」