はじまり



『ふむ、家がない。』

静かなカフェで彼と向かい合う。

『そうだね、ならしばらく私の『中佐』

遮ったのは私の隣にいるあの時の女性。
彼の言葉を遮ると、顔は笑っているが、目が笑っていない。...怒ってる?

『まさか、私の家に...とでもおっしゃるつもりですか?』
『...いや...だかね、家が無ければ』
『私の家にどうぞ』

え?
その時ようやく彼女を見ていた私と彼女の視線が合う。

『ただし、働かざるもの食うべからず。家事はしてください。』
『は、はい...お願いします...』

一件落着だね、そう言って笑う彼に、彼女がまた鋭い視線を送った

『中佐相手ですと、違う心配もありますので。』


あれから、私はリザさんのお家に居候している。

困ったことは家事だ。この世界では、マグル式のものばかりで、キッチンにあるコンロ??に火をつけることから学ぶことになった。

ひとりでもできるよう勉強していたつもりだったけど、屋敷しもべのいない生活は初めてで、洗わないと皿は貯まるし、お菓子やコーヒーは補充されない。

お金の使い方を学び、買い物にも行った。

分からないことや失敗することも多くて、その度にリザさんを呆れさせながらも、自分でする楽しさを経験した。


「私も働いて欲しいのだけど、身分証が無いとねえ…」
「身分証…例えば何を?」
「そうねえ、戸籍証とかかしら。」

そして、生活に慣れた私がした事はこの世界の『コセキ』?を持つことだった。

生活に慣れてきた今、次にすべきは自分を養うすべを得ることだ、とスタッフになればその先の禁書閲覧も認められると進められた図書館へ尋ねるも身分証がなく勇み足で終わってしまった。

魔法界ではブラックの名があれば何でも通ったがここではそれは意味をなさないし、マグルの世界で働くには、コセキがないと難しいらしい。
(それが身分証明なのだとリザさんに教えて貰った)

普通ならば難しいんだろうけど、この国で私の容姿は一般的。(今思えば、この容姿でニホンに行けば悪い意味で目立っていただろう)
そして、争いが絶えず、国としての制度がボロボロで、その大切なコセキを紛失するものは多い様子だった。

一か八かと思い、軍に「紛争で家を焼かれ、自身のコセキを証明することが出来なくなった」と泣きつけば、すぐに新しく作ってくれた。

「あら!もう持ってきてくれたのね、いつから働けますか?」
「明日からでもお願いします。」