彼女は誰だ

路地裏に "急に現れた" 彼女 。

いつものように新たな軍の狗探しからの帰り道だ。路地裏を眺め、目を離した一瞬。その一瞬のうちに彼女はそこに立っていた。


「彼女はどうかね?」

書類を整理する手を止め、少尉が私を見た。

「なまえさんですか。特におかしい行動は見られませんね。」

あの日、私と少尉は彼女、なまえを図書館に見送り、すぐにことの次第を話した。彼女の表れ方の"不自然"さを。

「ですが...」
「何かあるのか?」
「あまりにも、物事を知らなすぎます。まるで...世界が違うように...」

「世界...?」

突飛もないと笑う私に、ホークアイ少尉は静かに銃口を向けてくる。

「変なことを言っているのはわかってます。」
「いや、からかった訳では無いのだが.....続けてくれ」

銃をしまうと一瞬悩むように口を閉ざす。

「彼女、この国の制度とか...一般的なことを知らないんですよ」

今どきお嬢さまですらあそこまではないでしょう、そう続ける少尉は首をかしげる。

「それは、例えば?」
「そうですね...はじめに感じた違和感はキッチンの使い方を知らなかったことでした。コンロやオーブンの使い方を説明すると、すごく興味深そうに聞いてくるんです。掃除にしてもそんな感じで。」
「ほお...キッチンに立つことないお嬢さまと感じてもおかしくない。」

確かに、彼女は難民というにはあまりに質の良い_いや...良すぎると言ってもおかしくない_服を着ていた。

「はい。ですがおかしいと感じたのは、お金の使い方を知らない、というか..."お金"を知らないんです。」
「お金を?というと...紙幣制度をということか?」
「いえ...この国のお金とその価値を。もしや国が違うのかとも思ったのですが...、国境を違法に越えてきたには、彼女の服装は綺麗すぎましたし」
「なるほど...」

「そう言えば...今日は仕事に行ってくると言ってましたね。」
「仕事?ほお。見つけてきたのか」
「はい、国営図書館の臨時事務だと」
「国営!?」

つまり、彼女は最低限、"ここの国籍"を持っているということ。

「どうやって...」
「紛争でどこも荒れてますからね。よほど怪しくなければ簡単に作ることが出来るみたいですよ。」

なるほど、彼女が置いてくれたコーヒーに口をつける。

「なるほど頭の回転は早いらしい。少尉、その臨時雇用はいつまでかね。」

「確か、今週までの短期かと。」