垣間見る
中佐には伝え損ねていたが、_というより、伝えるタイミングを損ねた。または、報告する必要のある内容ではないとどこかで、感じたのかもしれない_彼女と過ごしていて気になる発言があった。
それは、彼女に買い物を教える時のことだ。いや、正しくは買い物に行くまでの途中のこと。
※
彼女はまるでスキップでもしだすのではないか、その位楽しそうに、"ただ"道を歩いていた。
_別にキョロキョロと辺りを見渡すわけではない。彼女の仕草は品がある、言わば、いい所のお嬢さま、まさにそんな雰囲気を持つ人だ。_
『楽しそうね』
彼女に思わず声をかけると、彼女は答えた。
『ええ!..とても。』
『あなたにとって、何が楽しいの?』
まるで愚問だと言わんばかりに、彼女は穏やかに微笑む。
『だって、 』
※
(『だって、どうどうと歩けるんだもの』...ね。)
まず考えたのは、なまえは誰かに狙われている、もしくは、何らかの敵対者がいる。
でも、これは否定するしかなかった。
(敵対者がいるとすれば、なぜ今隠れなくていいのか。)
仮に、私達_特に中佐は昇進が早く、また件の戦争で恨みを持つ人も多い_と敵対するものだとして。
一緒に生活してきたが何ら仕掛けてこないこと、そして無防備。かつ、誰かに連絡する様子がない。
彼女が信頼されてるスナイパーである可能性は、手を見ればわかる。あれは、銃や刃物を持った人のそれではない。_持ち物や彼女の生活から、錬金術師としての類のものを持っていないことは確認している_
他に考えられることとして、なまえと敵対するものが絶えたこと。
イシュヴァールしかり、紛争は耐えないが、どちらが根絶するには至った戦争はない。
小規模の対立も街中では多くあるが、もう堂々と歩けると言うほど、敵が多くいた状況を打破出来るのだろうか。(それほどの人間が亡くなった抗争は少なくとも東部では上がっていない)
そしてたまに、彼女は不思議なことを話す時がある。
それは、ついこの前。
星が綺麗な夜、なまえは窓から夜空を眺めて言ったのだ。
『南の果てで...血が流れてる』
私は耳を疑った。彼女は、現在私たちと同じくイーストシティの軍に書類整理など雑務を担当する事務として働いている。
_中佐ははじめ、監視のためだと言ったが、疑っている様子もないことから、今はただ気に入っているのだと確信している_
だが、軍事的なことには関与しておらず、何よりその情報が、人伝いにであっても彼女に漏れるには早すぎる。
南の国境で再度規模の大きい戦争が起きた。アメストリスの優勢とのこと、早めに決着つくだろうとのことだが、またもかなりの人が亡くなった。
『なにか見えるの...?』
外を見ながら呟いたなまえは、何かを知ったというより、"何かを視た"という表現が正しいように感じた。
『星占いよ、教えてもらったことがあったの』
『へえ...そうなの。誰に?』
『変わり者のケンタウ.....あ、いえ。知り合いに。』
ケンタウルス、彼女は確かにそう言っていた。
想像上の生物に?どうやって?
彼女は不思議な人だ。
まだ、読めないことが多い。