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「はーあ、人気者は辛いわぁ」

机に足を上げ椅子に深く座る俺に、硝子に「はいはいおつかれー」と軽く流された。任務が立て込み全国飛びまわり教室に入ったのは1週間ぶりだ。

その中で、ガラッと入ってきた先生が一言「悟、また行ってこい」

「はあ?俺ヘトヘト。傑パス」
「貸イチでいいよ」

そう軽く返す傑をさえぎるように、続ける

「夏油はダメなんだよ、#name#も行くから」
「おー、#name#初任務おめ。」
「だってさ、悟直々。頑張ってこい。」

いや、#name#も一緒ならダメってどういうことだよ、とかお前ら2人してノリ軽くない?とか、名前を呼ばれるまで関係ないって感じで窓をぼーっと見ていた#name#が自分の名前が呼ばれて驚いた顔をしていてお前他人事だったろってツッコミとか、いろいろ頭をまわった。

「足でまといになるようならおいて行くから」
「内容は下の車で待機してる補助監督に聞いてこい。ほら、#name#仕事だ。」
「おい、足引っ張るなよオレは今日はやり損ねたゲームするって決めてるんだから。」

ムッと、#name#は睨んでくるが小さく「わかってる」って返してきた。うんうん、弱いのを自覚するのは大事な事だ。無理も無謀な賭けもしない、それが死なないための鉄則だ。それに、下手に邪魔されるよりオレ1人の方が早く終わる、そう思った。



寮でのんびり椅子に腰かけてた硝子は、帰ってきた俺たちに目をぎょっとさせた。

「ちょっと、#name#大丈夫?」

明らかに血で染まった服を着た#name#は、「うん」と言葉少なげに返して「お風呂に入るね」とそのまま自分の部屋に戻っていく。

「ちょっと!五条、どういうこと」
「アレは、#name#の血じゃない。」
「は?」

#name#が風呂に向かう所をすれ違い俺たちのところに来た夏油も困惑を顔に出している。

「アレは……?」
「現場に、呪詛師がいた。で、その返り血。」
「あんたね、例え#name#が無傷でも、あんなやり方って!」
「オレじゃない。」
「は?」
「呪詛師をヤッたのは、#name#だ。」
「#name#が……?」

傑は無理だろそう言いたげだ、俺が傑の立場でもそう思っただろう。あの時のことを話すしかない。オレは、現場で起きた話を口にした。



現場は中学校、下校途中の学生が行方不明になることが続いており"窓"のさらなる情報を待っていたところだった。"下校出来なくなった生徒"から、助けを求める連絡が来るまでは。

「1人ずつ死んでいく、早く助けて、か。」

負の感情が募りやすい場所、閉じ込め、明らかに楽しむように殺している。そこまでの呪霊が進化するには、情報からのスピードが早すぎる。

「特級呪物が干渉している可能性は?」
「有り得ます。その中学校内には"社"があり、そこにあったと。」
「そこまで分かってるけど、確認できないわけね。」

中からは出て来れない、だが呪霊はいつ出てくるかもわからないため帳を貼って簡単に出て来れないようにするしかなかったと。話だけでも準1級以上だな、そう思った。

「で?生徒の数は?」
「生きていれば15人。」
「へぇ、よくそこまでわかったね」
「修学旅行のグループで自由行動を決めるために残っていたそうです。通報した生徒の家族からの情報でわかりました。2年3組の教室で。」

#name#の表情は覚えてない。

「五条、」

ただ、

「生徒たちは私が見つける。呪霊をお願い」

そう言った#name#に、「それが妥当だな」明らかに強い呪霊相手に、#name#と行くには手間だと、生徒を見つけて保護さえ出来ればいいかと、そう思った。

2級から1級か、そこそこ強い奴らが群れてた。何人なのかも分からないバラバラになった死体と、その様子からゲーム感覚でコイツらが殺してたことはわかった。俺にとっては時間はかかれど強敵ではない。ただ、数が多い、面倒だなそう思った。
ふと、あと1匹と思った時、そいつがサッと逃げた、いやオレと戦うための玩具を取りに行ったことがわかった。案の定、そいつのたどり着こうとした先は気を失った学生たちと、#name#、そして#name#に刀を振り上げる呪詛師だった。見覚えのある、だっせえ服、アイツら目立ちたいのか目立ちたくないのか。いや、ごめん脱線。

言っておくけど、なんの比喩でもない。
まず呪霊は、サッと消えた、いや祓われた。何が起こったか分からないうちに、#name#と対峙していた呪詛師も振り上げた刀を残してザックザク。

助けれた学生は3人、全部任せて#name#を連れ帰ってきて、今ってわけ。

「オレも分かってないことが多い。でも、あのまま置いていけなかったから、無理やり連れ帰ってきた。」


汚れを落とし、浴槽に浸かると目を閉じる。
"強者は弱者を助ける"それが社会の常だと、呪術を使えるのであれば貢献すべきと教えられた。疑問に感じたこともなかった、みんな弱いのだから助け合わないといけない、ってそのくらいの考え。

その助け合い、 お手伝いの中で、よく話しかけてくるお姉さんがいた。「頑張ってるね、ありがとう」なんて当たり前のことを褒める変なひと。どこかに行ったとかでお土産をくれたり、飴玉ひとつぽんとくれる日もあった。
優しくて、暖かい。お姉さんが褒めてくれる意味はわからなかったけど、お姉さんみたいな暖かい人になりたいと思った。

私がここまでひねくれた理由なんて、呪術者なら誰もが通ることだと思う。自分の力に自信が持てなくなったとか、死が怖くなったとか、大切な人を亡くしたとか。私はそう、お姉さんが死んでしまったことだった。

そう、めのまえだった。めのまえが真っ赤になった。「ごめんね」なんてちだらけのおねえさんはいった。
私は今まで何を守ってきたんだ。誰も教えてくれなかった、そう、弱い私には誰も守れない。

はっと、息をして浴槽からから出る。血も大丈夫、赤いのも平気、ただ呪いも呪術も怖い。

「夢の女子高生活捨ててまでこんな田舎に。」

あえてふざけたように声に出す。私はまだ、お姉さんの死を乗り越えていなかったんだな。

『今のままだとお前すぐ死ぬよ』

その通りだ。死はすぐ近くにある、あの時まで知らなかった。聞いても無駄だろうけど、彼はどうなんだろう、夏油くんは、硝子ちゃんは。
お姉さんは、怖くなかったんだろうか。「#name#ちゃん、今日は帰りにパフェ食べて帰ろっか。この近くに美味しいとこあるのよ」ってわらってた、その約束も守れなかった。

お風呂から上がるとまた三人からの視線。
むっとコッチを睨むように立つ五条、こちらを伺うように見ている傑、心配そうにでも1番冷静な硝子。
え、怖いんですけど、1人めっちゃ睨んでるんですけど。

「……なに」(特に五条)
「ちょっと顔かせ」

そういう五条の頭を硝子が容赦なく殴る。そして、「ホントに怪我はない?」って。

「うん、怪我はない。ありがと。」

自分の弱さが苦しいから逃げてたって、言ってもいいのかな。呪霊相手なんて日常にいる雑魚でも無かったら私だけで精一杯なのに、この世界だと他を守ることも必須って無理ゲーじゃん。