HEARTBEAT SCREAM
NO.011:うまくやらなくちゃ

そんなこんなで初戦以降、訓練は順調に進行した。
既に保健室へ搬送済みの緑谷くん以外は大きな怪我もなく、初めてにしては皆健闘したと、それぞれどこかその表情は満足気だ。

制服に着替えて教室に戻ってもその熱は冷めやらず、放課後は皆で反省会をしよう、という話になった。
轟くん、爆豪くん、それから一瞬保健室から帰還した緑谷くんは教室を出て行ってしまったが、ほかのみんなは残るらしい。
私はほぼ参加していないに等しいので、混ざっても良いものかと足踏みしたが、ここで一人帰路に着くのも空気が読めていないようで、それはそれで抵抗がある。

中学まではあまり友達もおらず、碌な思い出もなかったけれど、晴れて全国の受験生が憧れる雄英高校ヒーロー科の一員となれたのだ。
高校生活くらいは上手くやりたい。
こういうのはとにかく最初が肝心だと思う。

──などと、本題から逸れた思考を巡らせていると、蛙吹さん(梅雨ちゃんと呼んでほしいと言われていたんだった)がこちらをじっと見つめているのに気がついた。
彼女の癖なのだろうか、人差し指を口元に当てて、クリクリとした丸い目をこちらに向けている。
可愛い。
視線がかち合うと、蛙吹さ──梅雨ちゃんは小さく小首を傾げて口を開いた。
敢えてもう一度言う。可愛い。

「交子ちゃんの“個性”、しっかり見られなくて残念だわ」

ごく自然に下の名前を呼ばれて、私は一人感動に打ちひしがれた。
ちゃん付けで呼び合うなんて、超友達っぽい。
幸先の良い駆け出しである。

「“個性”把握テストんときの50m走はビビったなー。俺一瞬走るの忘れたわ」
「あーあれな、結局何したのか全然分からんやつ。すごかったな」

上鳴くんが宙を見つめてそう言うと、瀬呂範太くん(肘からテープを出す)がウンウン、と頷きながら同意した。
一方で話題の中心であるはずの私が心ここにあらずで胸に手を当てて天を仰ぐのを見て、麗日さんが私の方を不思議そうに覗き込んできた。
どうしようキモいやつと思われたかもしれない。

「替場さん? どしたん?」
「ごめん下の名前呼ばれ慣れてなくて嬉しくて感動してた」
「なにそれー! オモロいからアタシも交子って呼んじゃおー!」

桃色の肌をした芦戸さんが揶揄い半分でそう言うと、私も私も、とあっという間に女子勢に取り囲まれる。
自分が輪の中心にいるということが未知の経験すぎて、自然と頬に熱が集まるのを感じた。

しかし男子も女子も皆コミュニーケーションスキルが高い。
まだ入学して2日だというのに、戦闘訓練という共通の課題をこなすことでぐっと縮まったのだろうか。
皆ヒーローを志すに恥じないくらいには、元より“人に心を許す”ことにおいてポテンシャルの高い人たちなのか。

3年限りの高校生活。
私もこのまま輪の中で笑っていられるように、今度こそ。

─ うまくやらなくちゃ ─


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