HEARTBEAT SCREAM
NO.012:だってメガネだし

連日雄英高校の校門前には多くの報道陣が詰めかけ、私達生徒はその隙間を縫って毎朝登校する。
今日は真面目にインタビューに答える飯田くんの脇をすり抜けてきた(ごめん飯田くん)。

平和の象徴として名高いオールマイトが教壇に立つということは、それ相応に世間の注目度も高いのだが、雄英がそれに特別応じる様子はなかった。
行く手を阻む集団の間を擦り抜けるのはなかなか骨が折れるし、あからさまに苛立った様子の大人に囲まれるのは居心地が良くない。
学校側が適当にオフィシャルなコメントを出してくれればこの熱も冷めるのではないかとも思うけれど、まあそうもいかない大人の事情とやらがあるのだろう。たぶん。

「昨日の戦闘訓練お疲れ。VTRブイと成績見させてもらった」

相変わらず気怠そうな相澤先生のHRからスタート。
爆豪くんと緑谷くんへのお小言を挟んだあと、先生とちらりと目が合った気がしたが、特に何も言われないまま話題は変わった。
私の役立たず振りが露呈したため見限られたかもしれない。
クラスメイトからの名前呼びで浮かれていた昨日の放課後の自分を殴りたい。

「急で悪いが、今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいのきたー!」

一人で勝手に肩を落としていると、周りのクラスメイトはHRの議題に目を輝かせながら、俺も私もとみんなが勢いよく手を挙げる。
ことヒーロー科に於いては、多を牽引するリーダーシップを発揮する良い機会であり、真っ先に「やりたくない」と思ってしまった私の方が異常なんだろう(なにせ、そういうことにあまり関心がなさそうだと勝手に思っていた耳郎さんも立候補している)。

飯田くんの提案で投票制になり、クラス全員に手の平サイズの紙が配られる。
相澤先生は寝袋の中でおやすみモードだ(飽きたんだな)。

私は然程悩まずに用紙に名前を書き込んで、4つ折りにして教卓上の箱に入れる。
程なくして開票されたが、そのほとんどが一票ずつという混戦ぶりだ。
そりゃそうか、みんな自分に入れたわけだし。

そんな中。

「僕三票ーーー!?!?」

緑谷くんが三票、八百万さんが二票を集めて、委員長・副委員長が決定した。

「1票……1票!? その聖票を俺に投じてくれた人がいたのか……くっ、しかし俺の力不足でその期待に応えられることが出来ない……! 誰かは分からないが、本当に申し訳ない!!」
「他に入れたのね……」
「おまえもやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」

飯田くんに投票したのは私だ。
とは言っても、本人が期待するような熱い意味はない。

飯田くんは今にも他者に投票することがいかに尊いことであるかと演説を始めそうな勢いで、投票したのが私だと割れたら、きっと巻き込まれるに違いない。
黒板上に名前のない人は少ないし、誰が誰に入れたか特定するのは容易いだろう。
頼むからそんな野暮なことはしないでくれと願うしかなかった。

─ だってメガネだし ─


- 1 -
prevnext

章一覧しおり挿入main