HEARTBEAT SCREAM
NO.013:不思議なランチタイム

お昼休み。
クラスの女子は殆どがお弁当派だというのは知っていた。
私はというと、自分一人のためにわざわざおかずを箱に詰めるという行為がどうしても非効率的に感じてしまう──と、自分自身にこっそり言い訳をして、一人食堂へ向かう。

本音を言うと、家族の姿が垣間見えるものは、私には少し眩しい。
作るのが面倒というのも、本当だけれど。

親がいないというのは、必要がない限りクラスのみんなには言うつもりはなかった。
これまでもそうしてきたし、打ち明けたところでいないものはいないし、なにより相手に余計な気を遣わせてしまうのでよくない。

私自身、幸いなことにこれまで生きるのに困ったことはない。
施設ではバランスの良い美味しい食事と、小綺麗な衣服と持ち物を十分に与えてもらった。
もちろん、私と同じような境遇の子供が、全員同じように恵まれた環境で暮らしていけるかといえば、決してそうではないと思うけれど、孤児であることが必ずしも不幸であるとは言い切れないのもまた事実だと、私は思う。

食堂は学年・学科を問わず生徒たちでごった返していた。
クックヒーロー・ランチラッシュの作る料理はどれも美味しく、飽きの来ないようメニューが豊富で、それでいて安価で健康にもお財布にも優しいとあっては人気がない訳がない。
自らお弁当を拵える気にならないのもここの存在が大きかった。

私は少し悩んでハンバーグ定食にして、トレーを抱えたまま空いている席を探して彷徨った。
やっとこさ隅の方に空いているテーブルを見つけて腰を落ち着け箸を手に取った、ちょうどそのとき。
すぐ側で誰かが立ち止まった気配がしてふと顔を上げる。

「……轟くん」

盆を持ったままきょろきょろと辺りを見回していた背中にそっと声をかけると、彼は振り返って少し驚いたような表情を浮かべる。

「誰か探してるの?」
「いや……」

待ち合わせかと思ったがそうではないらしい。

「空いてる席探してるなら、ここ座る?」

私の座るテーブルの向かいは言わずもがな空席だ。
他にも似たような席はいくつかあったが、全く知らない人よりは多少相席しやすいだろうと声を掛けてみたが、迷惑だったろうか。

「嫌じゃなければ、だけど」
「いや、悪ィ」

今の「いや」は「嫌じゃない」と解釈していいのだろう。
轟くんはそっと盆を私の目の前に置いて席につく。

こうして面と向かって見ると、彼の整った顔立ちが殊更よく分かった。
葉隠さんたちが「イケメン」とやたら持て囃すのも頷ける。
対して赤い髪の間から見え隠れする火傷の痕が痛々しい。
轟くんの“個性”は半冷半燃だ。
左側の熱を帯びる“個性”でそうなったのだろうか。

「……なんか付いてるか?」
「えっ? ああ、ううん、ごめんね、何でもない」

自分でも気付かないうちに、轟くんのことを見つめてしまっていたらしい。
勝手に人の顔を凝視してあれこれ考えるなんて、失礼だったかなと反省する。

「学級委員」
「へ?」
「立候補してなかったな」

我ながら間抜けな声が出たものだと少し恥ずかしくなる。
脈絡もなく振られた話題に、口に運びかけたハンバーグが宙を彷徨う。

「……よく見てるね」
「立候補してないやつの方が少なかったんだから、考えなくても分かるだろ」

仰る通り、と誤魔化すように空笑いして、やっと箸を口に含む。
お肉がホロホロと舌で崩れるのを感じてから、また口を開く。

「飯田くんに投票したの、誠実そうだし」
「お前、気強そうな見た目のくせに無駄に控えめだな」
「……それは貶されてると捉えていい?」
「そう感じたなら謝る」

言いつつ蕎麦を啜る轟くんの表情は崩れない。
冗談なのか本気なのか、なんだか掴みどころのない人だなあ、なんて思いながら、私も箸を進めた。

─ 不思議なランチタイム ─


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