3月。
凍てつくような冬の寒さを越え、日中は少しずつ春の陽気が感じられるようになってきた頃。
「……冷静に、集中して」
パンッと両頬を軽く打って、自分自身に喝を入れる。
「っよし!」
深呼吸をして、交子は走り出した。
雄英高校ヒーロー科入試、実技試験のスタートだ。
試験内容は至ってシンプル。
ポイントの付与された4種類の
仮想敵を倒していくというものだ。
スタートからものの数分で、受験生達の間には歴然とした差が開いた。
純粋に攻撃力の高い“個性”を持つ者、機動力に長ける者が明らかに優勢。
交子の“個性”は「見たものの位置を交換する」だけで、それ自体には全く攻撃力は備わっていない。
しかしものは使いようなのだ。
丁度、交子の視線の先には圧倒的な攻撃力を持って、試験に臨む男子の姿があった。
彼の掌から次々と爆発が起こり、
敵の破壊は勿論のこと、爆発の勢いを活かして跳躍や滑空まで出来るらしい。
交子は羨ましい“個性”だ、と一つ歯噛みして、地面に転がる小石を拾う。
狙うは爆発少年が破壊した
敵のすぐ後ろ。
3ポイントと書かれた
敵に向かって先程の小石を投げつけつつ、“個性”で爆発の反動で宙を舞う
敵の装甲と交換してやる。
交子の“個性”は単純に位置を交換するだけなので、移動している物はそれぞれ元のスピードを保ったままだ。
質量は無視出来るので急激に失速することもない。
小石を投げつける要領で、その何百倍もの重量のある装甲をぶつけてやれば、3ポイント
敵は容易く破壊された。
爆発少年が空中からこちらを振り返る。
彼には何もないところから突然物が飛んできたように見えたに違いない。
一瞬誰が何をしたのか確かめるようにざっと辺りを見渡すが、それすら無駄に思ったのか彼は次の
敵に標的を絞る。
交子は同じような要領で、周りの受験生が壊した
敵の破片や小石を利用して、数体倒した。
そのうち二体は、
敵に
敵をぶつけてやったのだが、どうにも被害が大きくて、市街地を模した会場では向かない。
先程の爆発少年が派手に吹き飛ばした
敵がビルに激突する。
交子にはその下に人影が見えた。
それを視認すると同時に、交子は迷わず人影と自分の手元の
敵の破片を交換した。
咄嗟に頭を抱えたままの女子が、交子の元に現れる。
「大丈夫?」
「え……あれ、?」
ひとまず彼女には怪我がなさそうだと判断して、交子は大きく息を吸い込む。
「っちょっとそこの爆発くん! もっと周り見てよ!」
「ああ!? んだテメエ! モブが話しかけんじゃねえ!!」
モブ……!
確かにあれだけ派手な“個性”、きっとコミックなら主人公クラスだ。
しかし。
「こっちだって必死だっての……!」
交子はギリ、と奥歯を噛み締めた。
走り出そうとしたところで「あの!」という声に引き止められ、交子は反射的に振り返る。
「え、っと……助けてくれたんだよ、ね? ありがとう」
未だなにが起こったのか飲み込めていないような、なんとも表し難い表情で、半端に腕を伸ばしたままの女子に、交子は「お互い頑張ろうね」と軽く手を振って別れた。
悠長に立ち止まる訳にはいかない。
まだ交子はほんの数体しか倒していない。
周りの受験生と比較しても恐らく少ない方だ。
早く次の的を見つけなければ。
走り回って手当たり次第に
敵を倒していると、突如視界に影が差す。
0ポイントのギミック、超巨大
敵だ。
倒してもポイントにはならないし、そもそも容易に倒せるような大きさではない。
交子もポイント稼ぎを諦めて、他の受験生に混じって回避を選択し、逃げ回るうちに実技試験は終了した。
─ ロボ・チャレンジ! ─
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