HEARTBEAT SCREAM
NO.006:もうモブとは呼ばせない

消太くん──もとい、相澤先生に言われるがまま体操服に着替えたA組の面子。
グラウンドに集合した私達に告げられたのは『個性把握テスト』、簡単に言えば“個性”をフル活用した体力測定だ。
これまでも体力測定は年に一度新学期を迎える度に実施されていたが、純粋な運動能力を平等に測るために“個性”の使用は禁止されてきた。
ヒーローを目指す以上、あらゆる場面において“個性”を如何に使いこなせるかが重要になってくる。
もちろん、基礎的な身体能力の高さは言わずもがな必要だ。

とは言え、入学初日からやることなのだろうか、いやいやなんだか面白そうだ、と騒つく生徒らに、相澤は『最下位は除籍』というとんでもない爆弾を仕掛けた。

「除籍ってマジかな……ウチ、体力的に有利な“個性”じゃないから不安だわ」
「耳郎さんの“個性”って、その耳?」
「そう、イヤホンジャック。小さい音拾ったり、あとはアンプに繋げると爆音で心臓の音伝達できたりとか。完全に遠距離後方支援タイプなんだよね」

交子は朝の出会いからなんとなく一緒にいた耳郎とコソコソと小声で互いの“個性”について話す。
デモンストレーションで爆発の“個性”のツンツン頭が、ボール投げで700m超のトンデモ記録を出したのを目の当たりにしたせいで、少しずつ気が重くなってきたところだ。

「そっちは?」
「“交換”。文字通り見たものを交換する“個性”だよ。私もそんなに役に立たなそう」
「そっか、お互い素の体力勝負だね」

項垂れるように耳郎が言うと、前方から「ハッ」と小馬鹿にしたような短い笑い声。
交子が顔を上げると、先程のツンツン頭が目に入る。

「テメェらみてーな“ボツ個性”が受かんなら、雄英のヒーロー科も大したことねェな」

振り向いて意地悪く口角を上げた彼に、耳郎がムッとしたように「ちょっと」と声を上げた。
まあまあ、と耳郎を宥めながら、交子は至極穏やかに男子生徒を見る。

「爆発くんが」
「爆豪だクソアマ、いい加減その変な呼び名やめろや」
「ええー理不尽、さっき自己紹介してくれなかったじゃん、今初めて名前知ったよ」

勝手につけられたあだ名に苛立ちを隠す素振りもない爆豪の態度はかなり高圧的で、ごく一般的な普通の女子なら多少気圧されても不自然ではない。
しかし交子にはまったく響いていない様子で、耳郎は肝が座っているなあと隣で密かに関心する。

「爆豪くんが間違いなく私より優秀なのは入試見てたから知ってるけど、そういう言い方はあんまり良くないよ? 体力あるだけでヒーローになれるわけじゃないんだし」
「うっせェんだよモブ女、文句あんなら一つでも俺より良い記録出してみろや」

交子は数度目を瞬かせ「一つでいいなら」と笑ってみせる。
そんな反応が意外だったのか、爆豪は一瞬目を丸くした。

「私が爆豪くんよりいい記録を一つでも出せたら、ちゃんと私の名前覚えてね」

─ もうモブとは呼ばせない ─


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