「ドゥリンくん」
自身を呼ぶ声にドゥリンが顔を上げ、自分の姿を捉えた途端、ふ、と目元を綻ばせた。
ドゥリンの瞳の色が本当に綺麗な色をしていることに気付いたのは最近だった。
光が入れば神々しい赤に、影が落ちれば深い緋色へと転じる。角度を変えるだけで、万華鏡のように様々な煌めきを見せる瞳に魅入られて、しげしげとドゥリンの瞳を見る。
最初は困ったように首を傾げてこちらの奇行を見ていたドゥリンだったが、最近ではやや恥ずかしそうに瞳を伏せることが多くなった。
嫌がらないことを良いことに散々見ていると、アルベドに「程々にしなよ」と一言言われたぐらいでドゥリンから拒否の言葉を聞いたことはない。
嫌だったか、と聞けば、それにも彼は困ったように眉を寄せて首を横に振った。
可愛らしい青年の柔らかな紫紺の髪がその弾みで動いて、何から何まで色が綺麗だな、と思ったのが印象的だった。
「最近ね」
ドゥリンと話しがてら彼の瞳を眺めていた時、ふと、ドゥリンが徐に顔を上げた。
美しい色合いが真っ直ぐこちらを捉えて、柔らかく弧を描く。
「この色が好きなんだ」
「そうなんだ」
ドゥリンが教えてくれた色は、至って平凡な色だった。
ありきたりな色だと思う。けれど、ドゥリンはそれに笑みを浮かべた。
「光が入るとね、少し色が変わるんだよ。それも、最近気づいたんだ」
はにかむように笑う。その発見を心の底から喜んでいるようだった。
どこで見たのだろう、と思った時、彼は美しい満面の笑みでその秘密を教えてくれた。
「キミの色だよ」
内緒話でもするようにいつもよりも声量を絞られた声と、陶然とした日暮れの色がこちらを見つめる。意味を捉えかねた言葉だったが、ドゥリンの視線ですぐに理解した。
美しい色が見つめる先は、こちらの瞳だ。
「キミの瞳の色」
自分の瞳の色は至って普通の色だったが、それをドゥリンは嬉しそうに見ていた。
時折ずらされた瞳はもうずらされることはない。
凡庸な瞳の色を確かめるように、ドゥリンがこちらの顔を覗き込んだので、思わず顔を逸らした。
まるで最初の自分たちが入れ替わったように感じる。
最初は困惑を露にし、瞳を逸らしていた彼は、今ではこちらの顔を平気で見つめる。
照れて見れなくなったのは、自分になってしまった。
「こっち、見て」
胃の裏側を指先で突かれたような、猫かわいがりをしていたツケが回ってきたのを理解した。
名前を呼ばれ、その声に操られるように顔をあげる。
内臓を端から焼くような羞恥心を必死に押し殺して、半ば意地だった。
煌めく日暮れの色が、こちらを見つめる。
真っ赤になったこちらの顔を見ながら、ドゥリンは嬉しそうに言った。
「ほらね、キミの色」