行く末にこそ光有れ
カナヲが落ち着くのを傍で見届けると、晄夏は立ち上がった。カナヲは不安げに「どこに行くの……?」と問いかける。
「お別れだ」
晄夏がそう言うと、カナヲの目に再び涙の膜が張った。それを少しばかり嬉しく思いながらも、晄夏は扉へ向かう。その背に伊之助が叫んだ。
「待てよ!! お前、俺の子分だろ!! 俺には分かるぜ、紋逸と同じ呼吸だ! 鬼殺隊なんだろ、なら俺に着いて来い!! 一緒に戦え!!」
伊之助に至っては、未だに涙が止まっていないどころか、話している内にまた粒が大きくなっていた。本当にこの子は、と晄夏は思わず小さく笑う。
「ごめんな、親分。人間の俺ならいざ知らず、今の俺はとんと役立たずなんだ。童磨相手に消耗しすぎた……今はこうして話せているけど、いつ他の鬼と同じように、理性を失ってしまうか分からない」
「ッ…………」
「俺は人を喰った、正しく人喰い鬼だ。滅殺されるべきなんだよ」
自我、自由意志、それらは人を喰った後に取り戻した。都合よく今までの何もかもを忘却し、鬼として残虐の限りを尽くした。赦されてはいけないと、晄夏自身、今はきちんと自覚している。
「本当は……、有益な情報でも渡したいところだけど、生憎俺は寺院の外に出たのは、今日が初めてなんだ」
「……これから、どうするの?」
「鬼には呪いがかけられている。他でもない、鬼舞辻無惨から」
全て把握している訳じゃないけど、と前置きをし、晄夏は話して聞かせる。
「無惨に対する忠誠心、そして情報漏洩を防ぐために、名を口にすれば死ぬようになっている」
「……は? お、お前、今……」
「童磨は上弦の参の名前は口にしていたが、徹底して無惨のことはあの方≠ニ呼んでいただろう? そういうことだ。上弦ですら呪いはある」
俺にも勿論。
ヒュッと喉が引きつった音を鳴らしたのは、カナヲか伊之助か。待って、ふざけるな、そんな言葉が浮かんでは消えていく。晄夏に直接ぶつけることができない。
「俺はあの日死んでいたはずなんだ。生きていることの方が、きっとおかしい。……カナヲとカナヲの友達に会えたのは、もちろん嬉しいけどな」
晄夏は扉を開け、早口に告げる。呪いが発動したことによる死期を感じ取っていた。
「カナヲ、帰ったらゆかりに伝えてくれ。前を向けと。それと伊之助君、どうか、カナヲをよろしく頼むよ」
部屋の外に出て、後ろ手で扉に手をかける。
「俺は確信した! 鬼殺隊の未来は明るい! 君たちなら必ず鬼舞辻無惨を討てる! ──信じてるよ」
扉を閉める。直後、晄夏の身体は原型を失った。