謎の(どこからどう見てもちびノブの亜種っぽい姿形をした)埴輪が放つ光に包まれた一行は、邪馬台国にレイシフトしていた! ──というのが今回の特異点の導入である。
概ねいつものようにその場に居合わせたサーヴァントたちとははぐれ、千尋と藤丸は見知らぬ土地で二人ぼっち。どうしたものかと話していたところに現れたのが、邪馬台国の女王・卑弥呼とその弟(リクガメのすがた)であった。
千尋は思った。食堂で料理を待つ間にみんなで観ていた、ノッブP監修のドラマだか時代劇だかヒストリーなんとかみたいな、よく分からない番組。魔王卑弥呼を打ち倒す正義の壱与……なんやかんやで世界は平和に! 的な内容のそれ。ぐっだぐだの打ち切り漫画の様な展開で締めくくられたそれの舞台が邪馬台国であった時点で、ああなんか、始まっていたんだなと。
邪馬台国が存在していたとされる時代は、お隣中国で三国志がやっていた頃である。邪馬台国と聞いて抱く印象の割に、そう古くもない時代であったりはするのだが、如何せん日本は大陸と切り離された島国であるからして。現代まで比較的濃いめの神秘が残ったりなんかしちゃっている国なのだ。
平安時代は割と神代みたいなもの。それより前の時代ともなれば、まあ──……
──闇の新選組の一匹や二匹、湧いてもおかしくないのである。
「千尋さんッ! ぐだぐだだからって思考停止しないでッッ!」
うーん、はいはい、闇の新選組ね。よくあるよくある。……なんて遠い目をしていた千尋の肩を、藤丸が必死に揺さぶる。千尋は額に手を当てて「頭痛が痛い」と宣った。
千尋のレイシフト適性は絶無ではないだけでみそっかすである。マスター適性も申し分なくて高い魔力もあって、それなりの魔術刻印を持っているのに、レイシフト適性はほぼない。そんな訳でマリスビリーにがっかりされた経験のある千尋だが、なんと特定の特異点においてはレイシフト適性が驚異の100%にまで跳ね上がる。
その特異点というのが、誰が呼んだか『ぐだぐだ特異点』。始まりは、先日華々しいファイナルを迎えた本能寺──織田信長とか明智光秀とか、あと何故か時代的に無関係な沖田総司とか。彼ら彼女らが権謀術数とか渦巻く本能寺で、色々やっていた。閑話休題。
偶然かと思われた千尋のレイシフト適性100%も、ぐだぐだ特異点が発生する度にそうであれば「ああ、この人ぐだぐだ適性あるんだな」と認識されるのも当然のこと。ぐだぐだしているのに気軽に世界滅亡の危機に陥るので、千尋は本当に頭が痛かった。藤丸やマシュばかりに戦わせなくて済むという点はいいにしても、何故ぐだぐだには確定で巻き込まれるのか? 永遠の謎である。
邪馬台国を襲う浅葱色の羽織を纏った黒い武者。
千尋が「村正ァ! ……あれ、村正いない!? ぐだぐだレイシフト回避勢!? 羨ましいな!」と叫びながら戦っていると、助けに現れたサーヴァントがいた。
「逃げるならさっさと逃げろよ〜? ……ま、逃がさんがな」
そう言って千尋と鍔迫り合いをしていた闇の新選組を斬り捨てたのは、斎藤一だ。千尋は藤丸に振り返る。藤丸は勢いよく首を横に振った。意味は「自分が契約している斎藤一ではない」だ。つまるところ、土地(土地……?)に召喚されたはぐれサーヴァントという訳だ。
「あんたのせいか……!!」
千尋は斎藤の姿に愕然とした。
闇の新選組をすべて倒し切ると、千尋は手で顔を覆い肩を震わせる。クックックックッ……と喉で笑う千尋に、藤丸は小さく「村正さーん……?」と助けを呼んだが、残念ながら村正はカルデア待機勢である。
「ハッハーン、なるほどね。俺のぐだぐだレイシフト適性100%の理由……。斎藤一……あんたぐだぐだ出身サーヴァントか…………!」
「あら、僕ってばもしかして有名人? ……ていうか、何? 僕がどこ出身って?」
「薄々そうじゃないかなー? とは思ってたけど……はぁ、血筋……」
ひとりで納得し、ひとりで疲れた顔をする千尋に、斎藤は共に行動しているサーヴァント……山南敬助と顔を見合わせる。
ひとまず自己紹介の為に名前を名乗ると、千尋は山南の顔を見て「どこかで会ったこと……」なんてナンパの常套句を投げかける。山南は困った様に笑いながら「召喚されたことがあるのかな」と言った。
「いや、カルデアに召喚されてるのはそっちの一ちゃんですね」
「一ちゃん呼びはやめろって訂正したよな?」
「召喚……山南さんは……。……あ」
「無視?」
斎藤の宝具だ、と千尋は思い当たる。誠の旗を立てた時に馳せ参じた新選組隊士の中に、山南の顔があった気がした。
ひとり納得してウンウンと頷く千尋を指差し、斎藤は藤丸に「なに? 彼」と問う。藤丸が答えるよりも先に、千尋は斎藤に倣った愛想笑いを浮かべた。
「どうも、あんたの玄孫の藤田千尋です。聖杯戦争で召喚したこともあります。よろしく、おじいちゃん」
「おじ……、……え?」
「斎藤君の? そう言われると、どことなく面影があるような。よろしく、藤田君」
「え? ちょっと、あの山南さん? いやいや、玄孫ってそんな馬鹿な……」
「おじいちゃんって呼んでくれって言ったのはあんたの方なのに……」
「どこの僕の話してる? 一旦おじいちゃんって呼ぶのやめようか、一ちゃんでいいから!」
だってさ、とあくどい笑みで藤丸と目配せをする千尋。藤丸は「一ちゃん!」と元気よく斎藤を呼んだ。図られたか、と斎藤は千尋を見るも、彼はへらへらと笑うばかりである。
◆
「なんで僕の玄孫が魔術師なのよ。おかしくない?」
「うーん、それに関しては色々込み入った事情があんだよ。座に還ったら2004年の記録でも振り返ってくれ」
あぜ道にしゃがみこみ、人差し指で地面につらつらと文字を書いていく千尋。この時代の貴重な食糧である米を害虫や病気から守る為の結界だ。その様子を斎藤は興味深そうにのぞき込んでいる。
指先ひとつで火を起こしたり、刀からビームを出したり、そんな超常現象を当たり前に起こしてみせる千尋は、斎藤にとって未知の存在であった。
「その魔術ってのはどんなことも出来るわけ?」
「まさか。できることができるだけだよ、生活の知恵みたいなもん」
「今は何してんの?」
「……興味津々だな、一おじいちゃん?」
千尋はどこか嬉しそうにはにかんでみせると、文字を描きながら説明していく。
「これが虫除け、これが病気予防、これが根腐れ防止」
「便利なもんねえ」
「というのは全部嘘で、黒幕の拠点を辿って裏切り者を炙り出す魔術」
「へえ! いい魔術だな、教えてもらえないのが惜しいくらいだ」
薄ら寒いものを首筋に感じる千尋。殺気、なのだろうか。笑顔のまま考える。
斎藤の事だ、どうせ二重スパイでもしているに違いない。黒幕側の指示でカルデアの魔術師である千尋を警戒し、探りを入れつつも、殺しはしないだろうという確信があった。結局斎藤が準ずるのは不滅の誠であるからして、黒幕が如何な大願を掲げていようと、従わないはずだ。
「別に教えてもいいよ。一ちゃんに魔術のセンスがあればの話だけど」
「キャスタークラスの適性? ……あると思うか?」
「いや全く。アサシンの方があるんじゃない?」
「ははっ! 言うねえ、千尋君。口は禍の元ってお父さんお母さんから教わらなかったか?」
「……どうだったかな」
千尋にとっては唯一無二のセイバーであり、自身の高祖父でもある斎藤と腹の探り合いなどしたくはない。そういうのは魔術師相手で十分間に合っている。
2004年の記録を持ち込んでもいなければ、パスも繋がっていない、玄孫を名乗る男に対する態度なんて、まあこんなもんだよなとは思うものの、一抹どころではない寂しさが胸に燻っているのも事実だ。“同一人物の別人”という英霊召喚の特性を嫌と言うほど理解させられる。
気だるげにポケットに入れられている手が、その実いつでも刀を抜けるように控えていることを千尋は知っていた。対人距離も、不意打ちを躱しつつカウンターを入れられる距離だ。もしくは、抜刀したその勢いで首を斬れる距離。
「はあ……。あーあ……俺も斎藤一の霊基に刻まれたいなあ。今を生きてる人間ばっかりが影響されるって、ずるいと思わねえ?」
その場に座り込み、後ろに手をついて空を見上げる千尋。警戒心の欠片もない姿に、斎藤は目を瞬かせる。
「この空と大体同じ色だったな、うん、確か。自由の象徴だ」
「……何の話だ?」
「2004年の話」
怪訝そうに眉を寄せる斎藤に、千尋は快活な笑い声を上げる。
「俺に対して警戒すんのも悪ぶるのも無駄だからやめとけよ。疲れるだけだぜ? 斎藤一には自分の命を預けられること、ずっと前に知っちゃってるからな俺は」
「……はぁ、僕からすりゃこの特異点で会ったばっかの謎の玄孫なんだけどな。爺ちゃんだからって信用すると、いつか痛い目見るぞ」
「はは、違うよ。セイバーだから信頼してんの」
──この後、カルデア一行は巨大ハニワノッブ六体を相手取り(実に不思議なことに嵐ノブだけ瞬殺であった)、黒幕・芹沢鴨を打倒し、平和を取り戻す。……かと思いきやカルデアから持ち込んだ稲が異常な成長を果たして特異点を覆いつくした為、その稲を刈って刈って刈りまくり、最終的に十階建ての高床式倉庫を建造し、幕を下ろした。
特異点の記録を見たカルデアで召喚されている斎藤は、明らかに別の自分の前でだけ千尋が隙だらけであるので、「はぐれサーヴァントよ? 一応もうちょっとこう、ね? 警戒しないとダメでしょ」と緩みきった顔で注意した。
お孫君にげろよわ、というのは斎藤の同僚である沖田の談である。
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