君の好みは甘ったるいバニラの香水の子。
私はさっぱりシトラスの香水
なのに君はさわやかで美味しそうな香りだね、って笑うんだ。
「うぅっ名前ー」
「うお、どうしたのキヨ」
朝礼前、教室でぼーっとしていたら例のごとく彼女と仲良く登校したキヨが半泣きで私のところへ来た。
でも分かる、これは本当に悲しい時の泣き方じゃない。
「#name3#ちゃんがね、髪切ったらしいんだけどね、俺気付かなかったんだ」
「…で、怒られたと」
「うん…名前ー嫌われちゃったかなー?」
「大丈夫だって」
私の机にぐだーっと倒れ込んでるキヨの頭をよしよしと撫でて、ちゃんと謝れば許してくれるよ、なんて思ってもないことを話した。
そのまま別れてしまえ、なんてね。
「ありがとー…名前はほんと優しいね…あ、今日部活ないから一緒に帰ろう?」
「ん、いいよ」
じゃあ終礼終わったら迎えに来るね、と教室を去っていくキヨを見ていると朝礼がはじまるチャイムがなった。
◇ ◇ ◇
あ…キヨだ。
退屈な英語の授業中、外を見るとキヨが体育のサッカーで走っていた。クラスメイトとボールを追いかける彼は真剣に、でも楽しげに。
跳ねるオレンジの髪を目で追ってしまう。しばらく見ていると試合が終わったのか、キヨ達が両手をあげて何か叫んでる。
勝ったのかな、なんて思っていると彼が私に気付いたようだ。ぶんぶん手を振ってる。
あごについた左手をそのままに右手でそれに答えると、胸を張ってピースしてきた。やっぱり勝ったんだ、と拍手するふりをしてキヨを呼んでるらしい先生の方を指す。
それをゲ、とでもいうように嫌な顔をしてからそっちへ走っていく。
気付いてくれたのが嬉しくて、いつも見てるはずの後ろ姿が酷く恋しくなった。
こんな些細なことが嬉しいなんて、末期かもしれない。
◇ ◇ ◇
「何も聞かないんだね」
突然そう聞かれた。多分なんで一緒に帰ろうと言ったかということだろう。
部活ない日は基本デートだもんね。
大方朝のことでキャンセルされたんだろう。
「私だってバカじゃないよ」
「そっか」
ちらりと彼の方を窺うと、いつもと違うぼんやりした顔。
傷ついてるのに明るく振る舞って疲れたんだろうな。
「それより一緒に帰ってるのに暗い顔とか失礼じゃない?」
ひきつってる顔を隠し、くるっと回ってキヨの前に立った。
「10年来の幼なじみじゃ不満?たまには親交を深めようよ。
……こういうときはパーッと遊ばないと」
「そうだよね!遊ぼ!あっ商店街のクレープ屋美味しいらしいよ」
「じゃあキヨの奢りでー」
「えー!」
◇ ◇ ◇
「…っおはよ、キヨ。どしたの?」
次の日、家の前にキヨが立っていた。今日は朝練のはずなのに。
「おはよ。朝練サボっちゃった。今日頑張って仲直りするから名前にその表明をね」
「…ふーん。とりあえず学校行こ」
そういってキヨに肩を並べて2人で歩きはじめる。
「うん!ってか名前、香水変えた?」
「えっう、うん。前の飽きたかなーって。グレープフルーツにしてみた」
「そっちのがいいよ、前のオレンジより合ってる」
「そ、うかな?ありがと」
どうして、どうして?彼女の変化には気付かなかったのに私のには気付くの?
そんな疑問を口にすることもできなくて、また胸が痛くなった。