君が好きなのは丸くて小さな文字の子。

私は角ばった細い字


でも君は見やすい字でいいなって笑うんだ。





あれから3日。キヨは無理に笑いながらもいつもの彼に戻りつつあった。
大会が近いからと、毎日朝早くから学校に向かう彼を寝ぼけ目でカーテンの隙間から見送っていた。

それ、なのに。
今目の前で膝を抱えている彼はなんなのか。

「キヨ……?」



◇ ◇ ◇



いつも以上にいつも通りだった。
授業で当てられることもなくダラダラと黒板を写して。体育で失敗もせずバスケのゴールを決めた。だから今日一日これから起こることもとるに足らないことなのだとたかをくくっていたのに。
私に気付いた彼は床に座り込んだまま顔を上げた。

「まぁた振られちゃったー……放課後ちょっと時間があったからさ、#name3#ちゃんに会いにいったら誰かと電話しててね、驚かせようとそっと近付いたら内容聞こえちゃって。
慶って子と遊ぶ約束してた。俺の、試合の日。
なんとなく分かっちゃって電話切った#name3#ちゃんに『浮気?』って聞いたら彼女びっくりしてからそうだよって普通にいうもんだから……。俺、怒ってちょっとキレちゃった。そしたら、そんなんだと思わなかった、キヨって重――」
「もういいよキヨ!」
「名前……」
「もういいよ。そんな無理して話さなくていいから、ね?今日は部活休んでちょっとゆっくりお風呂入って寝て。そしたらきっと少しは落ち着くから」
「……分かった」
「南くんには私から連絡しとく。さ…帰ろう?」

側に落ちていたキヨのテニスバッグを拾って立ち上がった彼に差し出した。
キヨがふられるのも、こんな理由なのもいつものことだ。だけど私にとってはいくら経験しても慣れないこと。キヨに好かれているのにそれを捨ててしまう彼女、たちが許せなくて悔しくて。

私じゃダメなのかと家で一人、泣いた。




prev next


ALICE+