「…実は、さ。聞こえてきたんだよね、あのカフェで。ひっどい振り方するなって思ってちょっと覗いたらさ、名前ちゃんがすごい傷付いた顔で出て行って……気になって、気付いたら追いかけて話しかけてた。ごめんね、黙ってて」
「ううん……そう、だからこんな優しく……」

同情か、と酷く虚しくなって手に持ったアルミ缶を握りしめた。
少し、へこむ。

「ね、俺じゃ、駄目かな?」



◇ ◇ ◇



隣で少し動く気配がして、私の手に彼の手が重ねられた。

「え…?」

驚いて顔を上げると少し赤い、彼の顔。
彼の言葉の意味がやっと分かって、かーっと顔に血が集まる。

「一目惚れ、なのかな?心配だからって追いかけてまで話しかけたのは君が初めてだよ。俺だったら名前ちゃんにそんな思いさせない。
だからさ!」
「千、石くん…」

ね?と私の顔を覗き込んでくる彼に首を縦に振りそうになった。
でも、それを阻むように頭に響いた言葉は。
「付き合うの疲れた」
「千石清純ってナンパ男で有名じゃん」
「うまいことひっかけられたんじゃない?」
「重いんだよ」


「ごめん、なさい」

そうまた下を向いて言った。

「私、重いから。千石くんには合わないよ」

そういいながら彼の手を退け、最後は立ち上がって向かい合ってそう返した。
今日楽しかった、ありがとうさようなら、と回れ右をして駅へ駈け出す。
後ろから彼の呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返りはしなかった。




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