水曜日に結婚した
ソロモン・グランディ

それは私が愛した人のことなのでした。

彼と暮らし初めて少し経った。
彼の日常用品は多少は近くのディスカウントストアで揃えたが(なおスウェットは恐ろしく似合わなかった)外に出てるようなまともな服がない。

「服買わないとだめだよね」
「ああ。でも…」
「制服の子と並んで歩く方が目立つからいいんだってー。今日学校休みだしバイトまで私の買い物の付き合ってってことで」

そういって私は身支度をぱぱっと済ませ、朝食も食べずに家を出た。



◇ ◇ ◇



私たちは駅前のショッピングモールに向かった。

「此処で俺の知り合いに会ったりしないか?」
「うーん…氷帝から離れてるしなー田舎だし。まぁまたそっち出てみよう」
「そうだな」

適当に入った店で2人で服を選んで着てきて、と彼に渡した。

「金…悪い」
「気にしないでって。気になってるの私なんだから」
「あぁ、すまない」

そしてふ、と笑った彼に私は見惚れてしまった。



◇ ◇ ◇



「ちょ、なんか…凄い」
「は?」
「あー…気にしないで。でもこんな安物でごめんね、きっとケイはもっといいもの着ていただろうに」
「そんなことこそ、気にすんな。大体俺には記憶が無いんだから関係無ぇよ」

そういって私の頭をくしゃ、と撫でた彼笑顔を見て、胸の奥がきゅう、となった。
おかしい、ついこの前出会ったばかりなのに。
それからお昼を食べて、私はバイトだからと家の前で別れた。



◇ ◇ ◇



「ただいまー」
「おかえり」
「ふふふ、やっぱいいなー」
「何がだ?」
「いや、家に帰ったら電気ついてて、おかえりって言って貰えて」
「…そうだな、俺でいいならいくらでも言ってやる」
「ありがとう」

バイトから帰ってきて、迎えてくれたケイに晩ご飯を作って一緒に食べて。
それが余りにも懐かしくて、疲れた体に染み入るようなその感触に私はその夜、もういない家族の夢を見た。



◇ ◇ ◇



「…い、おい。名前、朝だぞ、学校遅れる」
「ん…」

ケイに叩かれて起きたはいいものの、頭が酷くくらくらする。
それでも無理して起きあがると、視界が揺れた。

「っおい!大丈夫かよ」
「だ、いじょうぶ」
「じゃねーだろ!声ひでぇし、すげぇ熱…」

倒れかけた名前の体を支えて、おでこに手をやると、焼けるように熱かった。

「あー…最近忙しかったからなー。ごめん、悪いけどバイト先に電話してもらっていい?学校は友達にメールするから」
「ああ」

そういう彼女の体をベッドに戻した。
彼女は携帯を少しいじってから俺に差し出し、そのまま眠りについたようだった。

「もしもし?名前ちゃん?」
「あ、いえ…
実は名前が熱を出しまして。今日休ませていただきたいのですが」
「あら、わかりました。大丈夫かしら?
最近お金がいるってバイト増やしてたから疲れたのね。
というか貴方もしかして名前ちゃんの彼…っ」

そこまで聞いて、俺は電話を切った。
つまり彼女は俺のために熱が出るほどバイトをしていたのか。
どうしてそこまで、と思った時、ふと独りぼっち、という彼女の言葉を思い出した。
彼女にとって俺は安心材料になってるのか。
振り向いたその先に苦しそうな名前。
彼女の側にいつまでもいたい、とそう思った。
おかしい、名前とはこの前出会ったばかりなのに。
只でさえ俺は記憶がないというのに。



◇ ◇ ◇



「ちょっとはましか?」
「うん…熱は下がったみたい。冷えピタ、貼ってくれたんだ」
「大分家探ったがな。あのな名前。話があるわ
そのまま聞いてくれ」
「ん?分かった」
「…自分でも変だと思うんだ。
俺は記憶がないし、名前とも出会ってまだ少ししかたってない。だが、お前の側にいたいと思う。誰よりも近くに」
「それってつまりどういう?」
「……好きだ。こんなことを言われても困るよな」
「え、あ、そんな、謝らないでよ。私も。……私もケイが好き。」


一瞬時が止まった気がして、2人で顔を見合わせて笑った。





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