木曜日に病気になった
ソロモン・グランディ

それは私の大事な人のことなのでした。

「…っ」
「どうかした?」
「いや…」
「もしかして口に合わなかった?ごめんね、こんな貧乏食で」
「お前な…いい加減それ気にするなっての。全然違ぇよ、名前の料理はうまいぜ?」
「ありが、と。…でもじゃあどうしたの?」
「ちょっと頭痛がな。まぁ寝不足かなんかだろ」
「あー昨日も遅くまで映画見てたしね」

洗い物を済ませ、ケイの元へ向かうとくい、と手を引かれて。
私は彼の足の間に座り、腰に回された腕に自分の手を重ねた。

「何?」
「この映画、見ねぇか?」

そういわれてテレビを見るとBSか何かで古い映画が始まるようだ。
映し出されるのは美しい青い目の人。

「好きだねー洋画。これは…ら、べる…?」
「美女と野獣だ」
「え、これ読めんの!?フランス語っぽくない!?」

驚いて後ろを向くと、みたいだな、と彼は肩をすくめた。
彼はどんな教育を受けてきたのだろう?
確実に私とは違う。
彼が洋画を好むのも以前の彼が好きだったからかも知れない。
ケイが知らない人のようで、私は彼の手をぎゅう、と強く掴んだままそれを見た。



◇ ◇ ◇



エンドロールが流れているとき、ケイが何か、呟いた。

「え?」
「や、なんでもない」

また振り返った私からつい、と顔を背けて、リモコンに手をやった。
はは、照れてる、可愛い。
すると彼はポチポチとチャンネルを変える。
彼の顔を見たままの私の耳に色んな音が入っては途切れ、変わり、そして、止まった。

「テ、ニス…」
「テニス?」

テレビの方を見るとテニスの試合をしていた。
私には分からないルールで黄色い球を追いかけている選手。

「そうだ!」
「きゃっ」
「俺は、氷帝でテニス部だった…!」
「ケ、イ?」
「名前!一つ思い出せた!」
「分かった、からとりあえず落ち着こ?」
「あ、ああ、悪いな。」

突然立ち上がった彼はすぐに元に戻って、私に話してくれた。
ケイは氷帝のテニス部で、部長をしていたらしい。
テニスを見る彼の眼はキラキラとしていて、私は急に不安に駆られてた。

「行く、の?」

自分でも震えているのがわかった。
返事が、怖い。

「まだ行かねぇよ。」
「え?」
「自分が誰なのか、勿論知りてぇ。けどお前との時間も大事なんだよ」
「ケイ」
「さっき誤魔化したのはな、あの映画の2人が俺たちみたいだって言ったんだ。
だから、全部思い出せたら王子様になって姫にしてやるぜ?」
「ケイ…!」

先のことも知らずに、私はそのとき、幸せだった。





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