金曜日に危篤になった
ソロモン・グランディ

それは私の何にも変えがたい人なのでした。

学校もバイトも、無い日。
前から行こうと、決めていた日。
氷帝へ行く、日。
祝日だったけど、部活はしているはずだという彼の言葉で決定した日、つまり今日の朝、私はいつもより早く目が覚めた。
ケイはまだ、寝ている。
私は支度を終わらせ、ケイを起こそうと布団に近づいた。
すると聞こえてきた、うめき声。

「…っうぅ…っ」
「ケイ?大丈夫?」
「いてぇ…っ」

私の問いかけに答えたのではなく、独り言で彼は苦しんでいる。
どうしよう、とあたふたしていると、彼がすく、と立ち上がった。
依然、頭を押さえている。
ケイ、と声をかけても反応しない彼は寝間着であるスウェット姿のまま玄関に向かった。

「ちょっとケイ!どこに行くの!?」



◇ ◇ ◇



頭を押さえたまま歩く彼はどこかに向かっているようだった。
急いで鍵を閉めた私はケイ、ケイ、と彼のすぐ後ろを付いて歩く。
なのに全く反応しない彼はゆっくり、危なっかしい足取りで進む。
それがまた知らない誰かのようで何時か感じた不安にまた、襲われる。
着いた先は、ストリートテニス。
テニス部員だった、というケイの言葉を思い出してドキリ、と胸が強く弾んだ。
ずんずん中に進んでいく彼に付いて、私も中に入る。
パコーン、パコーンといい音がしていたのに、急にそれが止んで、誰かが叫んだ。

「跡部…っ」



◇ ◇ ◇



何、と思ったその瞬間、目の前のケイの体が揺れた。
彼の輝く髪に、長めの青髪が被る。

「跡部!お前どこいってたんや!
俺らどんだけ心配した思てんねん…っ」
「忍、足…」

ケイの肩に手を置き打ちひしがれたように頭を下げる、忍足と呼ばれた彼の周りに、数人が集まって来た。
みんな口々に、跡部、どうしていたんだ、大丈夫だったのか、とケイを心配している。
ああ、これが私が出会う前の彼の知り合い。
いや、仲間か。
体が震えそうになった時、青髪の彼がこちらに気付いた。

「この子、何や?」
「え、と私は――」
「知らねぇ」
「え…?」
「俺は、こんな女、知らねぇ…」





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