ディミトリと支援C
イングリットと別れてから数時間経ったが、ナマエの頭にはぐるぐると彼女の言葉が回っていた。「……考えたことなかったなあ」
たしかに、この士官学校にはシルヴァン以外にもたくさん貴族やら紋章持ちやらがいる。
万が一シルヴァンから婚約破棄を言い渡されても、うまくその貴族やらを引っかけられれば家の財政建て直しなど容易いだろう。
とはいえ、だ。
「そこまでの魅力があるとは思えないし」
まるくて短い自分の爪を見る。とても綺麗とはいえない指にため息が出た。
イングリットのように美人でも、メルセデスのように包容力があるわけでも、アネットみたいに愛嬌があるわけでもない。
「ナマエ?どうしたんだそんなところで」
「殿下!」
頭を悩ませていたナマエに声をかけたのはディミトリだった。珍しくドゥドゥーの姿は見えない。
「なにか悩んでいたようだったが」
「いやあ、とても些細なことでして」
「……またシルヴァンが何かしたのか」
当たらずしも遠からず。
聞くまで逃さないと言わんばかりに腕を組んで眉根を寄せたディミトリに、ナマエは降参だと白旗を上げた。
「まあ、シルヴァンのことと言えばシルヴァンのことなんですけど」
「あいつの女癖の悪さについては俺も見つけたら注意するようにしているんだが……治る気配もないな」
「それはどうでもいいんですけど……というか殿下の手を煩わせてしまって……」
迷う間も無く素行の悪さを挙げられるのは人としてどうなんだろうか。
残念に思いつつ、ナマエは悩んでいたことを声にした。
「結婚するのはシルヴァンとでいいのか、と訊かれまして」
イングリットに、と付け足すとディミトリは神妙な顔で頷く。
「なるほどな。……シルヴァンは良い奴ではあるが、あの素行の悪さだけはどうにも……。ナマエはどう思ってるんだ?」
訊かれて言葉に詰まった。
答えがすんなり出てこないのは、彼以外の人との結婚を望んでいるからなのだろうか。
「シルヴァンのことは頼りにしてるし、好きではあるんですけどね……」
友人として。付け足すとディミトリが小さく唸った。
「難しい問題だな。俺からしてみればシルヴァンとナマエは良い夫婦になると思うが」
「えっ」
本気で驚いたナマエは目を丸くしてディミトリを見る。
────どこをどう見て、そんなことを。
「いや、お前らはなんだかんだでお互いのことを結構気にかけているからな」
それは多分距離感を気にしてるからじゃ、というのは飲み込んだ。
ナマエが微妙な顔になったのを、ディミトリは気づかず続ける。
「シルヴァンなんてナマエが怪我するとすぐ飛んで行くだろう。そういうのを見ると俺は嬉しくなる」
ディミトリの笑顔は真っ直ぐで、ナマエは頬が熱くなるのを感じた。
「それは、その」
「ナマエもだ。口では気にしていないと言いつつ、シルヴァンが他の女性を口説いてるのを見ている時は悲しそうな顔になっている」
「うそ!?」
完全に無意識、というか知らなかった。
頬がこれ以上ないくらい熱くなり、思わずナマエは手で頬を押さえた。
「本当だよ。だから俺もイングリットも、必要以上にシルヴァンを注意してしまうのかもしれないな」
いや、それは恥ずかしすぎる。めちゃくちゃ強がりみたいじゃないか。
羞恥心が最高潮になり、穴があったら埋まりたい、と両手で顔を隠したナマエをよそにディミトリはどこか楽しそうだ。
「まあ、シルヴァンも……」
呆れ半分の声は聞き取れなかった。
が、ナマエに聞き返す余裕はない。
ディミトリは咳払いをしてから真っ直ぐナマエを見据えた。
「ナマエ、シルヴァンのことを頼む」
ナマエは何かを言おうと口を開いたが何も思い浮かばず、結局項垂れるようにうなずいた。