カスパルと支援C+
「……カスパルって帝国のすごーく大きなお家なんだよね?」「なんだ急に。変なもんでも食ったのか?」
フェリクスに馬鹿にされた悔しさから通うようになった訓練場で会ったカスパルに訊くと、怪訝そうな声が返ってきた。
青海の節も後半になり、暑さが本格的に辛い時期に差し掛かる。ファーガスは寒冷の地なのでこの暑さはナマエにとってかなりきつい。
「食ってない……。ちょっとした興味、というか黒鷲学級は貴族の人が多いよなあって」
青獅子学級にも貴族はいるが黒鷲学級ほどではない。汗を拭きながらナマエが指を折った。
「まあな。でも俺は大貴族だけど次男だし紋章も無いしな」
「……紋章って大事かな」
思わず訊いてしまったのはシルヴァンの件があったからだ。
紋章を持っているが故に実兄から虐げられた弟。カスパルのように紋章を持っていなかったら、と自分のことでも無いのに考えてしまう。
「まあ大事だって言う奴もいるけどな。俺は関係ないと思うぜ。紋章があってもなくても努力しないやつが落ちぶれていくんだ」
その真っ直ぐな答えはナマエの胸にすとんと落ちた。
「そうだよねそうだよね!私もそう思う!」
「やっぱ鍛錬に勝るものはないよな!」
続いた言葉はなんだか少しずれた気もするが、充分すぎる返答にテンションの上がったナマエが拳を握りしめた。
「紋章に勝とうカスパル!」
「おう!」
ぶつけた拳と拳は痛かったけれど、それ以上に澄んだ心が気持ち良い。
もう一汗かくか、と提案したカスパルにナマエは一も二もなく頷いた。
一通り鍛錬を終えたカスパルとナマエは限界が近い空腹を満たすために食堂へ向かうことにした。
簡単にシャワーで汗を流し、それぞれ自室に寄って着替えたあと、再び寮の前で集合する。
先に待っていたのはカスパルで、ナマエは小さく謝りつつ彼の隣に並んだ。
シルヴァンと正反対の水色の髪は自分より若干高い位置にある。
「カスパルの髪色って目立つよね」
日が暮れた後でもなんとなく見える色にナマエが呟くと、カスパルは「そうか?」と不思議そうな声を出した。
「俺よりシルヴァンの髪の方が目立つと思うけどな。ほら」
カスパルが指で示した先を見る。確認できたのは、たしかに目立つ髪色をしたシルヴァンが女子生徒を口説いているところだった。
「あー……」
嫌な目立ち方をしている素行の悪い幼馴染兼婚約者を見たナマエの顔はなんとも言えない。
見てなかったことにして、話題を変える。
「カスパルは婚約者とかいないの?」
我ながらなんていう質問を。とナマエは発言した後に気まずくなった。
朝方イングリットと話したことと、今シルヴァンを見たことで話題の提示が偏ってしまった感が否めない。
「いねーよ!な、なんだよ急に」
思っていたよりも大きい声が返ってきたことに驚いたナマエが足滑らせた。これが釣り池側から食堂へ続く階段に登っていた途中というタイミングだったのが最悪だ。
落ちる、と覚悟して訪れるだろう衝撃を堪えるようにナマエが目を瞑る。
「なにやってんだよ、ナマエ」
「……いやあ、ありがとうカスパル」
待てども待てども痛みは来ず、代わりに呆れたようなカスパルの声が降ってきた。
カスパルの腕は片方が階段の手すり壁上部を掴み、片方はナマエの背中に回っている。
「ナマエって意外と抜けてんだな」
「今のはカスパルのせいでもあるからね」
快活に笑うカスパルの腕を借りて体勢を戻しつつ、ちょっとした恨み言をぶつけた。
階下に視線をやると、女子生徒と並ぶシルヴァンが静かな目でこちらを見ている。
怒っているような、諦めているような複雑な表情は暗くてうまく読み取れない。なんとなく目が離せないでいると、シルヴァンの方が先に逸らした。
「ナマエ、はやく行こーぜ」
「あ、うん」
なんだったんだ、と思いながら促すカスパルに返事をしてそちらに駆ける。
食堂に入ると美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、ナマエの脳からシルヴァンのことはすっかり抜け落ちた。