幼馴染による支援?

「単刀直入に訊こう」

 腕を組んで気難しい表情を浮かべるディミトリの横には、これ以上ないくらい面倒くさそうな顔をしたフェリクスが座っている。
 なんでこうなったんだか。
 シルヴァンは逃げるに逃げられないこの状況を理解してため息を吐いた。

「シルヴァン」

 諫めるような声に肩を竦め、「なんです?」と先を促した。
 おおよその展開は読めている。
 どうせ、ナマエ関連だ。

「ナマエと喧嘩でもしたのか」

 ────ほらな。
 予想が的中したことにシルヴァンは思わず鼻を鳴らした。

「何を見てそう思ったんです?」

 もともとすごく仲が良いわけでも、よく話すわけでもない。
 前から適度に距離は置いていたし、あの一件でさらに避けるようになったからといって、特段生活が変化したわけじゃない。

「隠してるつもりでも隠しきれていないぞ」

 ディミトリの鋭い視線がシルヴァンを刺す。

「隠してるって……やだなあ」

 わざと茶化すような口調をしたシルヴァンの瞳は笑っていない。
 剣呑とした空気が流れ、三人が集うディミトリの部屋に静寂が訪れた。
 三者がお互いの出方を伺う中で、意外にも口火を切ったのはフェリクスだった。

「お前らが喧嘩するたびに巻き込まれるこちらの身にもなれ」

 ため息混じりの声は呆れているようだ。
 いつお前に迷惑かけたよ、とシルヴァンが口を挟むよりディミトリの方が早かった。

「ナマエとシルヴァンの間に何があったかは知らないが、お前はナマエにあんな顔をさせて楽しいのか?」

 どんな顔だ、というのは訊くまでもない。
 悲しいのを我慢しているのが簡単にわかるくらい痛々しい顔だ。
 ────楽しいわけがない。
 けれど、ほんのわずかに優越を感じているのも事実だった。

「さすがの俺も泣き顔を見て喜ぶ趣味はありませんよ。まあ、ナマエは泣いてませんけどね」
「シルヴァン」

 調子を変えずに放った言葉をディミトリが強く叱責した。
 言外にふざけるなと告げている。

「なんなんです。俺とナマエが喧嘩して何か迷惑かけましたか」

 だんだんシルヴァンも苛々してきたらしい。
 若干語気が荒くなった。

「ああ、大いに迷惑だ」

 答えたのはフェリクスだ。
 苛立ちを隠そうともせずシルヴァンが睨みつけたのを無視して、言葉を続けた。

「訓練でも実戦でも集中力不足。ナマエだけじゃない、お前もだ。シルヴァン」

 痛いところを突かれて反論を失う。
 最低限はこなしていたし、足だって引っ張っていなかったはずだ。が、ディミトリも頷いているところを見ると、どうやらそう思っていたのは自分だけらしい。

「生半可な覚悟で戦場に出られるのは迷惑だ」

 言い返す言葉もなく口を噤む。
 自覚していなかっただけ余計に刺さった。

「……あいつに何を言ったが知らんが、人の好意を突き放して気持ちを確認するとは、酷く幼稚なやり方だな」

 鼻を鳴らしたフェリクスにシルヴァンは目を剥いた。
 ────いま、なんて言った?

「馬鹿馬鹿しい嫉妬心を隠そうとして躍起になっているところも幼いな」

 しばらく聞き役に徹していたディミトリも頷きながら口を挟む。
 この中じゃ年長者だぞ一応、と思いつつ、それより引っかかるワードがちらほら。

「な、なあ、ちょっと待て。お前らの言い方だと、まるで俺が」

 思っていたより焦ったような声が出て一旦言葉が止まる。
 ほんの少し息を整えて、恐る恐る続けた。

「俺が、ナマエのことを、好き、みたい、じゃないか?」

 一字一句噛み締めるように告げたシルヴァンを見る二人の瞳が細められた。

「何を今更」
「……猪でもわかることを」

 ────待て待て待て待て待て待て。

「ちょっと待て、いや、待ってくれ」

 もはや取り繕う余裕もない。
 怪訝そうに眉を寄せる二人に掌を向け、床に視線を落とす。
 俺が?ナマエを好きだって?
 心の中で反芻する。
 ぶっちゃけて言えば、ナマエからの好意は薄々気づいていた。それを本人が自覚していないことも含めて。

「……シルヴァンが折れないようなら俺がナマエを貰っても良かったんだが、その必要は無さそうか?」
「はあ!?」
「いや、ナマエなら気心知れているし無くもないと思ってな」
「ほんっと冗談はその馬鹿力だけにしてくださいよ殿下……冗談ですよね?」

 呆れたようにため息を吐いたシルヴァンが最後に念を押して確認するのを、ディミトリは楽しそうに笑って「冗談だ」と答えた。

「頑なになっているのかと思ったが、そうでもなさそうだな」

 冒頭よりもずっと穏やかになったディミトリに、シルヴァンは小さく唸る。

「いや……もう少し頑なになっていたかったんですけどね」

 気付かないふりをしていた方が楽だった。
 気付いてしまったら、もうどこにも戻れないのだ。ナマエを離すことだってしてやれそうにない。

「……本当はわかってたんですよ」

 ナマエが紋章を重んじてないことも、貴族や金に執着していないことも。
 それが、自分には眩しすぎた。
 眩しすぎて、逃げ出した。

「それをナマエに言うんだな。お前らは揃いも揃って大事なことを言わないからそうなる」

 今にも舌打ちをしそうなフェリクスが言い捨てて立ち上がる。

「そうだな……。ありがとうフェリクス」
「チッ」

 シルヴァンの謝礼に、フェリクスは憚らず舌を鳴らして部屋を出て行った。
 
「殿下も、すみませんね。わざわざ」
「いや。大切な仲間だからな」

 気にするな、とディミトリが微笑む。
 シルヴァンは笑って小さく頭を下げ、扉へ向かった。

「以前ナマエにも言ったが」

 出ていこうとする背中に投げられた言葉にシルヴァンが振り返る。

「お前たちは良い夫婦になると思うぞ」

 至極穏やかな表情で告げられ、若干気恥ずかしさが顔を出した。

「ははは……、そうなれば良いんですけど」

 少し気の早い未来の王へ笑いかけ、シルヴァンは今度こそ部屋を後にした。