カスパルと支援B

 あの日からシルヴァンとナマエの関係は劇的に変わった────かというと、そうではないのが現状だ。
 そして、それを不満に思っているのはシルヴァンである。
 今だって視線の先に、仲良く並んで食事を取るナマエとカスパルがいるのだ。
 お前の婚約者は誰だよ、と詰りたくなるのを堪えて眺めているシルヴァンを「ちょっと」叱責したのはイングリットだ。

「そんなに殺気を飛ばすくらいならナマエのところに行きなさいよ」

 事の顛末はナマエから聞いたらしい。
 珍しく素直に「良かったわね」と告げられたのはつい先日のことである。
 角弓の節が終わり、過ごしやすさを運んできた飛竜の節には鷲獅子戦が待っている。
 どこかみんな浮き足立っており、それはナマエも例外じゃない。────シルヴァンの苛立ちポイントその一。

「いや、鷲獅戦に向けてカスパルと訓練に励んでるのを邪魔できないだろ?」

 訓練相手に選ばれなかったのは、散々サボっていたツケである。
 フェリクスには嫌だと一蹴されたらしいナマエが次に指名したのがカスパルだ。
 面白くない。大いに面白くない。

「……あなたってそんなにわかりやすかったかしら」

 頬杖をついて相変わらずナマエを眺めたままのシルヴァンに、イングリットは意外なものを見たとばかり呟く。
 好きに言えばいいさ。
 視線の先のナマエが楽しそうに笑った。




「……カスパル」

 一方、同時刻、同所にて。
 ナマエはほとんど食事を飲むように食べているカスパルにそっと話しかけた。

「なんだ?いらないなら俺が食うぞ」
「いや、食べるよ。そうじゃなくて……」

 あの日以来、特に飛竜の節に入ってからシルヴァンとよく目が合う。
 それはおそらく自惚れではない。
 実際今だって物凄い視線を感じている。

「最近、シルヴァンがめちゃくちゃこっち見てるんだけどカスパルなんかした?」

 鷲獅戦に向けて、敵であるカスパルと訓練しているのが気に入らないのか。
 一人の時や他の人といるときよりカスパルといるときが一番視線を感じるのだ。
 限りなく怒りに近い、視線を。

「なんもしてねえよ?でも言われてみれば確かに最近殺気みたいなの感じるよな」
「殺気……」

 シルヴァンは私かカスパルを殺そうとしているのだろうか。
 あの日和解したと思ったのは気のせいで、もしかしたらまだ怒ってる?────いや、それにしては以前と比べてシルヴァンに話しかけられる率が高いような。
 頭を悩ますナマエをカスパルが笑った。

「なんだよ、また喧嘩してんのか?」
「仲直りしたばっかなのに……ていうかカスパル知ってたの?」

 喧嘩(と言っていいのか微妙だが)していたことを知っているのはてっきり幼馴染だけだと思っていた。

「前節の頭くらいからシルヴァンと喧嘩してたのをか?知ってるぜ」

 時期までピタリと当てられて、ナマエは小さく息を漏らす。
 まさか、カスパルが気付いてるとは。
 鈍感の代名詞にもなり得るカスパルにすら察されていては、もしかしなくても士官学校中の人が知っているのではないか。

「フェリクスが文句言ってたからなあ」
「あっ、フェリクス経由」

 それならそこまで広まってないだろう。
 安堵したナマエが胸を撫で下ろす。

「おう。誰かは言ってなかったけどよ、ナマエ見てれば簡単にわかったぜ!」
「そんなにわかりやすいのか私……」

 この間から散々言われているので最早驚きはしないが、嬉しいわけではない。
 なんとなく自分の頬に手を当ててみる。

「俺はわかりやすい方がありがたいけどな。察しがいい方じゃねぇから」

 快活に笑うカスパルは清々しい。

「私、カスパルのそういう潔い性格好きだよ」
「俺もナマエの思ってること全部顔に出るところ好きだぜ!」

 褒められたのかは微妙だが、言葉に裏表がないカスパルのことだ。本人からしたら褒めているのだろう。
 相変わらず気持ちいい笑顔を浮かべるカスパルに、ナマエも思い切り笑ってみせた。
 
────のちに、この言動が事件を引き起こすことになるとは、微塵も思っていなかった。