シルヴァンと支援A

 青獅子の学級ルーヴェンクラッセの勝利で幕を閉じた鷲獅戦後、クロードの提案で開かれた宴は盛り上がりをみせていた。
 三学級が入り乱れた食堂は混沌としている。
 そんな中ナマエは迷うことなく、今節一番手合わせをしたカスパルと食べたり飲んだりしながら、今日の感想を言い合っていた。
 それを目敏く見つけたのは、誰だったか。

「ナマエとカスパルって仲良しよね」

 誰かのその一言で皆の視線が一気に二人に集まった。

「え?」

 驚いたような顔をしたナマエとシルヴァンの目が合う。
 シルヴァンがやや怒っているように見えたのか、ナマエが頬を引きつらせたのと、カスパルが話し出すのはほとんど同時だった。

「仲はいいよな?今節ずっと一緒にいたし」
「あ、うん。そうだね」

 半分くらいしか会話に意識がいっていないナマエは曖昧にうなずく。
 シルヴァンの周りの気温が体感五度くらい下がったのは気のせいではない。隣にいたアネットはぎょっとしたし、事情を知るイングリットも思わず後退した。

「そういえばさ、この間食堂で好きとか言い合ってなかった?」

 その誰かの問いが一気に周りを煽った。
 女子生徒たちがきゃあきゃあ言いながらナマエとカスパルを囲む。

「そんなこと言ったかなあ?」

 いまいち現状を飲み込めていないナマエは呑気に首を傾げ、カスパルも同じように頭を悩ませているようだ。

「覚えてねぇけど、ナマエのことは好きだぜ」

 カスパルの一言で、囲んでいた女子生徒たちが一層色めきたった。 
 それと正反対にシルヴァンの機嫌はどんどん下降していく。

「私もカスパルのそういうところ好きだなあ」

 応えたナマエに目を剥いたのはシルヴァンだけではなかった。
 幼馴染一同がぎょっとした顔でナマエを見、そのあと恐る恐るシルヴァンへ視線を向けたのである。

「へえ」

 氷点下何度、という冷たい声を出したシルヴァンに場が凍りついた。
 笑顔だが瞳の全く笑っていない様子は、魔王と揶揄されてもおかしくないほど怖い。普段の彼を知る者は余計そう思ったことだろう。

「シルヴァン?」

 いまいち空気の読めないカスパルが、不思議そうに首を傾げた。隣のナマエは何かを察して視線を逸らしている。
 盛り上がっていたはずの宴は一気に静寂に包まれた。

「ああ、いや。俺は婚約者の不貞を見逃せるほど心が広くないんでね」

 お前が言うな。
 というのはおそらくナマエを含めた幼馴染四人全員が思ったことである。
 思いつつ誰も口にしなかったのは、ここまで静かに怒るシルヴァンを初めて見たからか。

「婚約者……って、は!?」
「えっ、ナマエとシルヴァンが?」
「うそでしょ?ほんと?」

 新たな火種に群がる士官学校の生徒たちを横目にシルヴァンはにこりと人の良さそうな笑みを浮かべてみせた。

「なあ、ナマエ?」
「……ハイ」

 項垂れるように頷いたナマエへ歩み寄るシルヴァンの顔はまだ怖い。
 カスパルは二人を見比べ、それから納得したように手を鳴らした。

「ああ!それでシルヴァンずっとナマエのこと見てたのか!」

 殺気が凄すぎて殺されるかと思った、と笑い飛ばしたカスパルのハートの強さよ。
 羨ましいのと感心するのとが混ざった気持ちでカスパルを見ていると、また辺りがざわつき出した。
 殺気。殺気だってよ。殺す気だったの?婚約者を?いや浮気相手の方じゃない?どっちにしろ怖いでしょ。やばいでしょ。
 耳をすまさずとも聞こえる声がシルヴァンに刺さる。

「いや待て待て待て、それじゃあ俺がすごーくやばい奴みたいじゃないか?」
「実際そうだろうが」

 ばっさり切り捨てたのはフェリクスである。
 
「そもそも散々不貞を働いてきたお前が何を言っているんだ。意味がわからん」

 ナマエが言いたかったことをそのまま代弁したフェリクスが鼻を鳴らした。
 たしかに。そうだよね。と同意するような声が辺りを飛ぶ。

「それについては反論があるからな!」

 さっきまであんなに怖かったシルヴァンが小さく見えるのはなんでだろう。
 ナマエは関係ないような遠い目をして二人を眺めた。カスパルも不思議な顔をしている。

「言ってみろ」

 挑発的にシルヴァンを見るフェリクスは若干酔っているのか目元が赤い。

「ナマエと正式に付き合い始めてからは他の女を口説いてない!」
「ほう」

 力強く拳を握って得意げなシルヴァンに、ナマエは一つ疑問が生まれた。
 訊くべきか悩んでいると、フェリクスがナマエを見据えた。

「この阿呆はこう言ってるが、どうなんだ」

 周囲の視線がナマエに刺さる。
 普段こんなに注目を浴びることのないナマエは怯みつつ、恐る恐る口を開いた。

「いや、あの、私とシルヴァン付き合ってましたっけ……?」

 その一言にフェリクスは吹き出し、シルヴァンは唖然とした。
 可哀想な人という烙印を押されたシルヴァンは後日しばらく周りから同情の目で見られたという。