守護の節、4の日
*やんわり性表現あり
「……ということでまとまったんだけど」
どう? と首を傾げて訊いたナマエの言葉は、悪意や他意など無く、あくまで純粋に疑問を解決したい一心から出たものだった。
告げられた側はたまったものではないが。
「とんでもない結論に至ったな……。ドロテアちゃんとヒルダか……」
人選に問題はない。
ナマエのことだからディミトリだのイングリットだのに相談を持ちかけるかと思ったが、最適な人材を選んだようでそこだけは安心する。
とはいえ、だ。
「下心って言ってもいろんな下心があるから、シルヴァンに訊くのがはやい、とも言ってた」
「はははは……さらにぶっ込んでくるとは」
シルヴァンの頬が引きつった。
下心がないと言ったら嘘になる。
一節に一度だった外出は二週に一回になり、三日に一度はこうして寝る前にナマエの部屋で他愛もない話をする。
もちろん、それなりの触れ合いはするが、最終段階に持ち込んだことはない。
それが三節も続けば、そろそろ、なんてことを思わないわけがなく。
「シルヴァン?」
「あ、いや……下心か、そうか、下心ね」
寝台に並んで腰をかけるのはもう当たり前になっているが、今はそれがやけに気になった。
不思議そうな顔でナマエがシルヴァンを見上げるのですら、毒だ。
「なあナマエ、この話やめないか」
「ええ? シルヴァンが言い出したから、真面目に努力してたのに?」
「明日の朝聞いてやるから、今はちょっと」
なんだそれ、とでも言いたげなナマエと視線が絡んだ。
ほら。今だってお前は下心に気付いてない。
胸の奥がふつふつと煮え立つような、急き立てられるような感覚に陥る。
その柔らかい体を暴いて全て飲み込んでしまいたい。他の男なんて目に入らないくらいどろどろに溶かしてやりたい。────綺麗なところを余すことなく汚してやりたい。
「……シルヴァン?」
薄ら開いた唇がひどく扇情的に見えた。
「そういうとこ、だぞ」
唸るように吐き出したシルヴァンはナマエの手首を捕まえ、そのまま覆いかぶさるように寝台へ縫い付ける。
小さく悲鳴を漏らしたナマエの唇を塞ぐと、驚いて見開かれた目がシルヴァンを映した。下心なんてかわいいものじゃない。劣情に煽られた男の顔がそこにある。
「ナマエ」
呼ぶ声は掠れた。
追い縋るように唇を合わせて、その隙間を抉じ開ける。開いた唇と反対にナマエの目蓋は硬く閉ざされた。
引っ込みがちな舌をなぞり、絡め、吸う。
────やばい。
これ以上したら止められなくなる、という境でシルヴァンはゆっくり唇を離した。
名残惜しい顔をしたのはどっちだったか。
「……あわよくばこういうことをしたい、って思うのが下心だ」
言い捨てて上体を起こす。
早くナマエから離れないと、本当に歯止めが効かなくなりそうだった。
一方のナマエは何かを考えるように寝台に背中を預けたままだ。
薄い腹が緩く上下するのが視界の端に映り、目に毒だから早く起き上がれとナマエへ手を差し出す。
その手を眺めるナマエの瞳が揺れた。
「い、嫌じゃないよ。シルヴァンなら」
この雰囲気に流されたのか。なあ、本当にいいのか。もう止められないからな。──── 数多の感情が脳内を飛び交い、一つになる。
「おまえ、うっかりそんなこと言って、ただで済むと思うなよ」
シルヴァンの言葉に小さく頷いたナマエへ噛み付くように唇を合わせたのが、「はじめて」の始まりだった。
痛みには強い方だという自覚のあったナマエは、こういった行為への怖さは特に持ち合わせていなかった。
相手はシルヴァンだし。大丈夫だろうと高を括っていたナマエだったが、物事が進んでいく中で、本当に辛いのは痛みじゃないことを潔く察した。
「ナマエ」
甘くて溶けるような声で呼ばれながら硬い指で肌をなぞられると、それだけで頭がおかしくなりそうだった。
無理、だめ、と息をする合間に告げた言葉はシルヴァンに飲み込まれて届かない。
上擦った声が自分の口から漏れそうになるのを堪えて唇を噛んでいると、シルヴァンはそれを目敏く見つけた。
「声、聞きたいんだけど」
熱に浮かされた瞳で懇願されても、今回ばかりは頷けない。
だってここは寮だし、隣には人がいる。
部屋はかなりしっかりした造りで、壁は厚そうだが万一聞かれたら恥ずかしくて生きていけない、とナマエは首を横に振った。
「……まあ、そのうちだな」
思っていたよりあっさり引き下がったシルヴァンに安堵して息を吐く。隣人にこの行為を感づかれることはなさそうだ。
と、体の力が一瞬抜けたのを見計らってか、シルヴァンの指がナマエの胸の先を掠めた。
「ひ……」
喉の奥が引きつるような声が漏れた。
慌てて手で口を覆おうとしたが、シルヴァンが唇を重ねる方が早かった。
いつもより性急で荒い口付けは、簡単に思考を奪っていく。
脳みそも体もぐちゃぐちゃにかき乱されて、ほぐされて、右も左も上も下もわからない。
どれくらい時間が経ったのか、ナマエが息も絶え絶えになって体を震わせたとき、シルヴァンが苦しげに吐き出した。
「痛かったら、言ってくれ」
余裕のない瞳がナマエを射抜く。
心臓と下腹の辺りがきゅうっとなるのを感じながら、ナマエはそっと頷いた。
「うん」
声は掠れていて、シルヴァンへ届いたかわからない。それでもシルヴァンは労わるように酷く優しい口付けを落とした。
今日のこの一連の流れの中で一際優しく触れた唇を受け入れて、まぶたを閉じる。
すぐさま抉じ開けるような、大きな圧力を下腹部に感じて思わず体に力が入った。
「ナマエ、息吐いて、力抜け……」
「む、り……」
シルヴァンの言葉に何とか返すも、息の吐き方はわからない。いつもどうやって吐いてたっけ、力を抜くって何だっけ。
堪えられないほど痛いわけじゃないが、痛くないわけじゃない。
何が何だかわからなくなって、目尻に涙を溜めたナマエをあやすようにシルヴァンが唇で目元に触れる。
暴くような動きは止まった。
「痛いのか?」
気遣う声に、ナマエが息を飲む。
────痛い、よりも、気持ちいい。
声を堪えるのが、つらい。
首を横に振ったナマエを見て、シルヴァンは深く息を吐いた。
「痛くないなら、やめない」
やめるなんて無理だ。
耳に響く低い声が、再び奥へ進もうとする熱が、いつのまにか絡めとられた指が、愛おしいと伝える唇が。
境界線もわからないくらいに触れて、溶けて、混ざる。
滲んだ視界の先に幸せな未来を見た。