わずかな吐息と空白
シルヴァンに誘われる形で街に出たフェリクスは、目敏くそれを見つけた。「おい」
眉間にしわを寄せたフェリクスが顎で示した先をシルヴァンは目を凝らして見る。
休日だからか人通りの多い街中で、がたいのいい厳つい男に囲まれているのは。
「ナマエか?」
「……あの馬鹿は何故一人で歩くといつも絡まれるんだ」
呆れ気味に吐き出した言葉と共にフェリクスの足が渦中へ向けられた。
「よく見つけたな、お前。ナマエが街に出てるの知ってたのか?」
「知らん。無駄口叩くな、行くぞ」
「はいはい、すみませんね。ったく、戦じゃねぇんだから……」
ナマエだって弱くない。
フェリクスの言うとおり散々絡まれてきただけあって、その手の輩を躱すのはうまい方だ。
にも関わらず、様子見もしないで真っ先に手助けしに行くのは彼なりの優しさか。
それとも。
「……あの人混みで見つけるくらいだもんな」
口では厄介だ面倒だと言っておきながら、放っておくことができない。
シルヴァンはかわいい弟分の不器用さに小さく笑って、その背中を追いかけた。
「いやあ、助かったよー。ありがとうね」
朗らかに笑いながらお礼を言うナマエの顔には恐怖も焦りも何も無い。
代わりにフェリクスが渋い表情になった。
「お前は何故そんなに絡まれるんだ。馬鹿だからか?」
「それは私も絡んでくる人に聞きたいなあ。馬鹿だからでは無いと思うけど」
一言多いフェリクスに否定を入れつつナマエは首を傾げる。
「ところで二人はなんで街に?ご飯?」
考えるような仕草をしてみせたが、その時間はほんのわずかで、すぐに話題が変わった。
相変わらず自由だな、と思いながらシルヴァンがその問いに答える。
「ご明察。折角だからナマエも行くか?」
「えー、いいの?」
「もちろん。なあ、フェリクス」
「勝手にしろ」
鼻を鳴らして顔を逸らしたフェリクスに、ナマエは両手を挙げて喜んだ。
「やった〜! 今節カツカツだったんだ〜」
「奢られる気満々かよ。奢るけど」
「さっすが頼れる兄貴分!」
いひひ、とあまり上品ではない笑い方をしたナマエが先陣を切って歩き出す。
フェリクスの眉が小さく跳ねた。
「……おい。お前が一人で先に進むとろくな事にならん」
「ええ? 素敵な騎士様が二人もついてるから平気でしょー」
「チッ」
昔から特段変わらない二人のやりとりは見ていて微笑ましい。
先日の食堂でもそうだが、結局いつもフェリクスが折れるのだ。
シルヴァンは並んで歩き始めた二人の背中を一歩後ろから見守った。
「あっ、そういえば」
ナマエが何かを思い出して、フェリクスの腕に触れる。
怪訝そうな顔をしたフェリクスだったが、それを振り払うことはしなかった。
「ベレト先生がフェリクスのこと探してたよ」
「早く言え!」
あっけらかんとして言い放ったナマエにフェリクスの拳骨が落ちる。
「痛っ! もー、すぐ手が出るんだからさー」
「どう考えてもお前が悪い」
「急ぎではなさそうだったもん」
「それは勝手な想像だろうが!」
だんだんと白熱してきた言い争いを、後ろから眺めていたシルヴァンが手でいなした。
「はいはい。とりあえず飯食おうぜ、な?」
目当ての宿場はすぐそこだったらしい。
シルヴァンに腕を引かれたナマエの目が途端に輝いた。
「おいしそー! 肉!」
切り替えの早さに苦笑しながら、フェリクスも入るよう促す。
「ほら、フェリクスも。早くしないとナマエに全部食われるぞ?」
「うるさい」
渋々といった体で扉くぐったフェリクスはまったく素直じゃない。
正反対の二人を隣に並ばせて、自分は机を挟んだ向かい側に座る。
いつまで経っても世話を焼いてしまうのは年長者の性か。
「フェリクス、肉! 大好きな肉だよー!」
「そのくらい見ればわかる」
冷めたことを言いつつ、フェリクスの頬は肉を目の前にして緩んでいる。
なんだかんだで単純な二人をシルヴァンは頬杖をついて見守った。