第2部 第19章 ネロのこと

2023/07/21

まほやくは愛と幸せについての物語でもあるな、と思う。

彼らそれぞれが大切に、乱雑に、奥底に、中心に、抱えている愛と幸せ。
重かったり軽かったり、長かったり短かったり、抱きしめたり噛み締めたり、しがみついたり手放したり。
どんなカタチも淡く美しく、どんないろもありのまま愛おしい。

私たちの世界でも日々たくさんの意見が飛び交う愛や幸せのこと。
おかしいと言われる愛や幸せのこと。
尊きものと言われる愛や幸せのこと。

誰もが違うカタチやいろで抱える愛や幸せ、そのすべてが儚く脆く美しい、ありのままに愛おしいものだと、
壊れかけた世界に生きる壊れそうな彼らは感じさせてくれる。






「お前のせいで何人死んだと思ってる!?」を、ネロはどう受け取ったんだろう。
無反応だったってことは特別な罪の意識を持つことも諦めて生きてたのかな。
いつか裁かれるそれを当然の事として。

ここで言う「死んだ」は、ただ石になることだけじゃないように感じてしまう。
ネロが言っていた盗賊団の手下たちにとっての誉れ、

石になってブラッドリーに食べてもらうこと

ネロはきっとその誉れを、夢を、仲間から奪った。

なぜって、ブラッドリーを助けようとした仲間たちの石が、捕らわれたブラッドリーの手に渡るわけが無い。
フィガロと双子率いる魔法使い軍の者たちに食べられたか、何かの材料(エレベーターのような)に使われたか、放置か。フィガロと双子の性質的に放置はなさそうだし、「欲しい奴にあげるよ」とか、もしかしたらそれをブラッドリー捕縛計画参加者への報酬にすらしてたかもしれない。

あんなにも観察力洞察力に優れたブラッドリーが、自分の手下たちが考える誉れに気づかないとは思えない。
「俺らに価値を与えろ」と賢者に説いたブラッドリーが、手下のその誉れを大切にしないとは思えない。
「死者は尊ぶべきだ」と言っていたブラッドリーが、仲間の死を尊び石を手にできなかったことを、彼らに誉れを与えられなかったことを、悔やまないとは思えない。
そんな「何人死んだと思ってる」だったら?

ネロ、お前はどう受け取ったんだ…

誰よりもボスを信奉し、敬愛し、ボスに食べられることを誉れだと思ってきたネロが、仲間の誉れを自分が奪ったことに気がつかないわけがない。そして、その誉れを手にできなかったことがブラッドリーという男に憧れた人にとっていかに悲しい終わりであるかも。想像だけでも他の誰より分かるはず。

現に(ブラッドリーが来たからこれで死ねる)とネロは思っただろうから。
仲間の命を、仲間の価値を、仲間の石を、仲間の誉れを、それらを裏切ったことで死んだ何人を、ネロはどう受け取ったんだろう。

その罪をずっと感じて分かりきっていたから、無反応だったのか?
その罪から逃げられる、でもブラッドリーに殺されることはできない、でもその誉れは手にできるかもしれない、そんな絶望と希望の狭間に逃げての無反応だったのか?
ブラッドリーに石を食べてもらえる、それでやっとすべてを諦められるから、無反応だったのか?



ネロという男は、すごくわかりやすい。
諦められないのはブラッドリーだけ。

ネロという男は、ひどく難しい。
ブラッドリーだけは諦められない。