第2部 第19章 フィガロ・ガルシアの話
2023/07/21
第18章を読んだ時、こう思っていた。
「誰か、フィガロを助けて」と。
フィガロを、フィガロ・ガルシアという男を見くびっていた。
ただの迷える大人ではない、神さまにさえなれる方だ。
人を救い、人を助けられる強さを持っている方だ。
そんな方が、自分に素直に自分の心のまま強い思いを持って口にする言葉に強さがないわけがなかった。
浮薄な者たちめ……。
私の名を思い出し、悔やむがいい。
二度と命令に逆らうな。
ああ、あまりにかっこいい。
膝をついて「フィガロ様」と言いたくなるのがよく分かる。
こんな強さを持つ、こんな痺れる言葉を2000年前に聞いていたのなら、北の精霊たちが最初の命令に反応しなかったのも分かる。
北の精霊たちが強い者を好むのも分かる。
これほど圧倒的に上等な刺激を与えてくれる命令にどうして痺れずにいられよう。
どうしてすべての魔法使いに求めずにいられよう。
迷える大人として、
愛を求めさまよう哀れな人として、
愚かになれない孤独な神として、
つい、彼を可哀想な人だと思っている所がある。
断じて弱くない、強かな人だというのに。
フィガロを無私な男だと思ってきた。
力で言うことを聞かせようとしてくるのが北のフィガロだけれど、でも、彼はいつだって人のために生きてきた。
少しでも人を救ってあげたい。自分の力で。
自分は救われていないのに。
だけど、フィガロを救える人などいるわけがなかった。
彼は強い人だから。
フィガロには人を救える力と強さがあった、救おうとする心があった。
だから誰もがきっと、フィガロを救う必要がある、フィガロを救える力を自分が持っていると考えたことすらないのだろうと思う。
いつだって、フィガロは手を差し伸べる側だ。
自分に尽くそうとしてくれる人、救おうとしてくれる人がいない中、ミチルとルチルにちょい悪オヤジとして世話を焼かれることで疑似体験していたのかもしれない。
助けようとしてもらえる、手を伸ばしてもらえる感覚を。
そのフィガロが、「アイザックは殺そう」と言った。
すべてを救ってあげよう、すべてに手を差し伸べてあげよう、応えられるものすべてに応えてあげよう、そういう心で生きてきた男が。
人のためではなく、自分のために、動くことを決めた。
ミチルと未来を語り、アイザックを殺すこと。
並べられていると釣り合わない光と闇だけれど、どちらもフィガロの心が自分のために動いた証。
応えたいものに応える。守りたいものを守る。
相手のためじゃなく、自分がしたい。
フィガロの心を救うのは、ファウストか、ミチルか、レノックスか。誰だろうと思っていた。
フィガロは自分で自分の心を救い出せるのかもしれない。
なんて、強い人だろう。
なんて、崇高な人だろう。