芥川龍之介から夏目漱石への手紙

先生
また、手紙を書きます。嘸、この頃の暑さに、我々の長い手紙をお讀になるのは、御迷惑だらうと思ひますが、これも我々のやうな門下生を持つた因果と御あきらめ下さい、その代り、御返事の御心配には及びません。先生へ手紙を書くと云ふ事がそれ自身、我々の滿足なのですから。

(中略)

畫は、新思潮社同人中で、久米が一番早くはじめました。何でも大下藤次郎氏か三宅克己氏の弟子か何かになつたのかも知れません、とにかく、セザンヌの孫弟子位には、かけるさうです。

(中略)

いよいよ九月の一日が近づくので、あんまりいゝ氣はしません。先生にあやまつて頂くよりは、御禮を云ふやうになる事を祈つてゐます。

(中略)

どうかお體を御大事になすつて下さい。修善寺の御病氣以來、實際、我々は、先生がねてお出でになると云ふと、ひやひやします。先生は少くとも我々ライズィングジェネレエションの爲めに、何時も御丈夫でなければいけません、これでやめます。
   
八月二十八日             
芥 川 龍 之 介
  夏 目 金 之 助 樣  梧下

引用:小さな資料室 様より 資料211