「ぁがっ…ひ…ぃ……っ」
頭に血が上って目眩がする。吊られた足首が千切れてしまうのではないかというように痛い。うまく息ができなくて死んでしまう。
上げるえという冷たい声と共に水から引き上げられた女は苦しそうに咳き込む。
息が出来ない事は人間から冷静さを奪い取っていくようで呼吸は上手く整わず背中で縛られた両腕の鎖を外れやしないのに何度もガシャガシャと鳴らす。
そうこうしているうちにまた再び頭は水の中へ沈んでいく。
完全に頭だけが沈んだところで容赦なく鞭で叩かれる。
あまりの痛みに悲鳴を上げるが悲鳴は泡となって水面を揺らすだけで誰かに届くことはない。
いよいよ目の前が白んできた頃、漸く引き上げられる。
「げほっ、はぁ…はぁ…げほっげほ…」
「中々苦しそうだえ、奴隷にピッタリのお仕置きだえ。」
そう言うと彼女の息がまだ整わないうちに再び下ろすえと冷たく言い放った。
声を上げる間もなく水に沈んだ彼女はゴボゴボと水面を揺らす。
そんなことを繰り返されるうちに、体力の消耗と精神的な疲労で女の意識は朦朧としてくる。
声も次第に蚊の鳴くようなか細く小さいものへと変わっていった。
女は死にたくない、ただその気持ちだけで息を吸った。
「反応がつまらないえ。…そうだえ!身体を拭いたらその奴隷をわちしの寝室に連れてくるえ!息もできない用にラップでぐるぐる巻にして枕にして寝てやるえ!」
そう言うと男は持っていた鞭を放り投げステップでも踏むかのように上機嫌に部屋を出ていった。
今にも落ちてしまいそうな女の意識は使用人の持ってきた興奮剤により強制的に浮上させられる。
これから行われる恐怖を想像するだけで心拍数は速まるのに興奮剤のせいで苦しいくらいにドキドキと心臓が早鐘を打っている。
きっとこのままでは今度こそ死んでしまう。きっと苦しんで死んでいくのだろう。イヤだ…死なたくない…
ぐるぐるとひたすら考えるが生き残る術が浮かばない。整えられた支度、抵抗する間もなく引き摺るように寝室に連れて行かれる。
「むっふふーん、さぁて可愛がってやるえ」
目の前には食品用のラップのロールを片手に持ってにたにた笑う男。
震える手足でじりじりと後退るがそれよりも大きな歩幅であっという間に距離を詰められる。
怖がる姿を楽しむ様に近付く男にせめてもの抵抗として顔の前に出した腕は無慈悲に掴まれた。
「観念するえ、さぁ」
「ごっご主人様!!!も、もしご迷惑でなければ寝物語を一つ、わっ私に読ませていただけませんか?」
「ん?なんだえ?」
震える声で咄嗟に出た言葉に少し興味を惹かれた様子だったがこれから行う事の好奇心のほうが勝ったのだろう、男はくだらないと再び行動を起こそうと女にラップを近付ける。
「もし、面白くなければ!お気に召さなければどうぞ、私をこ、殺してください。」
「………相当自信があるようだえ。…じゃあもしわちしが面白くないと思ったらお前を直ぐにラップでぐるぐる巻にしてやるえ。」
「はぃ…あ、ありがとうございます。」
男は馬鹿にしたように鼻で笑うと女の腕を乱暴に放すと天蓋付きの豪華なベッドに横になった。
「それでは、はじめさせていただきます。」
ーあるところに…ー
女が紡ぐ物語にはじめは鼻をほじっていた男であったが物語が進むにつれて欠伸を零したり船を漕いだり眠そうな表情に変わっていった。
ー…というお話だったのです。ー
「くわぁっ…おい、メス奴隷……続きは…早く話すえ…」
「もう遅いので続きは明日にしませんか?ご主人様、とても眠そうでございます。」
「煩いえ……ふん、今日のところは…これで…許してやるえ…」
ありがたく思え、消え入りそうにそういった男の意識は直ぐに夢の世界へと旅立って行った。
張り詰めていた緊張の糸が解けたのか足が思うように動かない。女は静かに入ってきた使用人に両脇を支えられる様にして引き摺られ奴隷部屋へと戻された。
奴隷部屋のボロボロのパイプベッドの上で自らの身体を抱きしめ静かに呼吸を震わせる。
大丈夫、今日は生きてる…大丈夫、大丈夫。
何度も自己暗示をするように大丈夫と繰り返すと溢れそうな涙を拭って小さくポツリと言葉を溢す。
明日も、生き延びよう…
まだ薬の効果が切れていないのか、それとも抜け出せない地獄への恐怖心からか、ドキドキと速い心拍数に気付かないフリをして薄い毛布を被った。
それからの日々は様々な方法で陵辱され、身体的、精神的に凌辱され、そして漸くその日一日が終わる頃、決まって男に寝物語を読むことを強要された。
女はそうやってその日一日、一日を確実に生き延びていった。
「全く、クソガキが。」
大柄な男は悪態をついて白い扉を乱暴に開く。
派手な音に部屋の中央に配置された天蓋付きのベッドから誰かが転がり出てくる。
転がり出てきたのは派手な金髪の女で床に散らばった衣服を掻き集めると男の隣を抜けるように走り去った。
男は去っていった女に見向きもせずズカズカとベッドに歩み寄る。
「いつまで寝ているつもりだ?ロー」
「……………寝てねぇよ…なんか用かよヴェルゴ」
「朝飯の時間だ、わざわざ俺が起こしに来てやったんだ。感謝しろ。それから…ヴェルゴさんだ!」
バキッという鈍い音の直後、低く呻く声。ヴェルゴと呼ばれた男がベッドに寝転んだローと言う男を殴った音だ。
早く来い、そう言うとヴェルゴはさっさと踵を返し部屋を出ていってしまった。
残されたローはズキズキと痛む頭を押さえ舌打ちすると被っていた毛布を足で蹴り飛ばすようにずらしてベッドから起き上がる。
落ちている服を拾って身につけると欠伸を一つ溢してヴェルゴの後を追うように部屋を出た。
「フッフッフッ…いつものことながら遅ぇな、ロー」
「眠れなかっただけだ。」
食事の並んだテーブルには既にヴェルゴともう一人のサングラスを掛け不敵に笑う男が席に着いていた。
サングラスの男の椅子の背もたれにはピンクの鳥の羽のような派手なコートが掛けられている。
食事をする二人に倣うようにローも空いた席に着くと用意されたコーヒーに口を付けた。
「ロー、お前にいい知らせだ。今日の夕頃からチャルロスの馬鹿の屋敷で奴隷のお披露目会をするらしい。」
「興味ねぇよ、一人で行け。」
「まぁ聞け。その奴隷だが意外なことにあの飽き性のチャルロスが相当入れこんでるようでな。なんでも夜毎寝物語を読む奴隷らしいぞ。」
「…寝物語?…へぇ、あの阿呆がなぁ。文章を理解する頭があったのか。」
お前の不眠症も良くなるかもな、そう言うとサングラスの男は器用にナイフで切り分けた肉を口に運んだ。
「毎晩毎晩、色んな話を聞かせてくれるって噂だ。みてくれも中々の上玉、確かシェヘラザードとか呼ばれてたか。」
「シェヘラザードねぇ…千夜一夜物語か。」
「フッフッフッ…気に入ったなら俺がチャルロスの馬鹿から買ってやるよ。」
「要らねぇよ…だが興味が湧いた。その誘い乗ってやるよ、ドフラミンゴ。」
にやりと笑ったローはカップの中身を一気に飲み干し籠に盛られたリンゴを一つ手に取ると革靴のヒールを鳴らし部屋を出ていった。
ボロ布の様な服が擦れて火傷を負った右肩甲骨の皮膚がジンジンと熱い。
今日の夜は天竜人の中でも一番偉い人が来るとかで無礼のないようにと朝から手酷く躾をされた。
それは胎内にバイブを挿れた状態で声を上げたり動いたりしてはいけないというものだった。
動いたのが直ぐに分かるように乳首にクリップで鈴を留められた。
少しでも声を漏らしたりその鈴が音を立てようものなら棒で叩かれたり、火の点いた煙草を押し付けられた。
はじめは耐え切れず動いたり声を漏らしたりしていたが、繰り返される凌辱にこれ以上されたら死んでしまうかもしれないという思いで必死に耐える。
必死に声を抑え動くのを耐える女につまらないと思ったのか男は女が動いたり声を上げるようにバイブを足で奥へと押し込んだり、煙草の灰を女の身体に落とした。
どんどん増えていく傷と痛み、意識を手放す前に終わった躾にホッとするのも束の間、男の命令でお披露目のために使用人達に風呂に入れられた。
それがまた地獄のような時間だった。
叩かれた傷や火傷に湯がかかるたび激痛が走り逃げようとする身体を抑え込まれ身体を洗われる。
風呂が終わる頃には上げすぎた悲鳴と痛みに悶え暴れたせいで女は歩くことが出来ない程疲れ果てぐったりとしていた。
あと何時間休めるか、痛みを訴える身体を抱きしめる気力も湧かず奴隷部屋に戻された女は限界を迎えていた意識を手放した。
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