04.a go go
どうしてこうも予定が入っている日に限って先生に呼び出しをくらってしまうのだろう。
学生の貴重な放課後に予定が入ってないとでも?急いでデート相手に遅れる旨を連絡したところ、時間つぶしのためにわざわざ私の学校まで迎えに行くとの返信があった。この時間だと既に到着しているかもしれない。
教材を適当に詰め込んだ鞄を持って足早に教室を去る。予想は的中。声をかけようと勇気をひねり出しているらしい周囲の男子には気にも留めず、他校のセーラー服を着こなした彼女は校門に寄りかかってケータイをいじっていた。
「柚葉ちゃん」と声をかけると、ぱっちりとした切れ長の目と視線がぶつかった。
「おっそい!」
「ごめんて。私も意味わからんのよ」
「呼び出しとかサボりなよ」
「人類みんな不良だとでも思ってる?」
柚葉ちゃんとは学区が違うので、中学校はおろか小学校も同じだったことはない。だが放課後でも休日でも、学区という枠を超えてデートをする仲だ。
それに加え、私と柚葉ちゃんは系統が異なるため、仲良くなるきっかけを不思議に思う人は少なくない。
「今日どこ行く?」
「渋谷で服見たい。ナマエは?」
「この前言ってたクレープ屋さんがオープンしたから行きたい」
「どこ?原宿だっけ」
「うん」
「じゃあ服みてから原宿行くか」
「おっけ」
自分ひとりではまだ入る勇気が出ないお洒落なお店も、柚葉ちゃんとふたりなら入れてしまう。渋谷にあるお洒落なショップは大体柚葉ちゃんに教えてもらったといっても過言ではない。
*
ショップを巡った後、私たちは原宿へと移動した。目的のクレープ屋さんは最近オープンしたのもあって店先には多くの女学生が列を成していた。しかしそんなことは全く関係ない。私たちは美味しいスイーツの為になら躊躇せず行列に並べる女子なのだ。
「柚葉ちゃん何味だっけ」
「いちごとチョコのやつ」
「いいな。私カスタードバナナ。一口交換しよ」
「ハイ」
流石、話題になっているクレープ屋。
ただ甘ったるいクレープとは違って、いちごの甘酸っぱさとチョコの組み合わせがとても美味しい。生地自体ももちもちとしていて、これは並んだ甲斐があった。
「もう。クリームついてる」
「取って」
「八戒かよ!」
「デート中に他の男の名前だすのヤメテヨ!」
「あ〜ハイハイ」
「雑!」
「このあとどうする?」
「ん〜プリ撮ろ!」
「賛成!」
*
「もう帰るよ」
「ヤダーツ!このキーホルダー、柚葉ちゃんとお揃いにしたいのッ!」
「今月まだ2週間はあるけど、お金大丈夫なの?」
「…」
柚葉ちゃんに核心を突かれ、思わず黙り込んでしまった。
「ほら帰るよ」
「あと1回…あと1回だけ…」
柚葉ちゃんとよく行くゲーセンでプリクラを撮った後、私はうさぎのキーホルダーが放たれているUFOキャッチャーにしがみついていた。柚葉ちゃんは一足先にキーホルダーをゲットしたのだが、もうひとつ、あとひとつが落ちない。嗚呼、私たちを隔てるこの透明なアクリル板が憎い。
「柚葉とナマエじゃん」
「久しぶりだな。何してんだ」
「マイキーとドラケンじゃん。ナマエが駄々こねてんの、説得してよ」
UFOキャッチャーにへばりついていると、見知った顔が集まってきた。
この如何にも不良少年なふたりとも小学校はおろか、中学校も異なるのだが、柚葉ちゃんや三ツ谷の繋がりで顔見知りになっていた。
佐野くんも龍宮寺くんもあの見た目なので知り合った当初はビビり散らかしていたが、見かける度に話しかけてくれる優しい性格に助けられて今ではこちらからも話しかける仲になっていた。
そんな佐野くんはアクリルにへばりつく私に「やりゃいいじゃん」と簡単に言う。
そりゃできるもんならこんなに駄々をこねてない。誰かさんと違って。
「結構やったけど取れない。けどもうお金ない」
「じゃあ諦めるしかないじゃん」
「柚葉チャンとお揃いホシイッ!」
「ガキかw」
確かにお金もないのに欲しがるのは駄々っ子と同じだ。いい加減諦めて資金を貯めてから再チャレンジしようと一時の別れを告げようとしていると、笑っている佐野くんとは反対側にやってきた龍宮寺くんが背を屈ませて訊ねた。
「欲しがってんの、このピンクのやつか?」
「ウ、ウン」
聞かれたので素直に返事をすると、龍宮寺くんは私が睨んでいた機械にポケットから出した硬貨を3枚いれ、慣れた手つきであっという間に喉から手が出るほど欲しがっていたうさぎを落下させていた。
「ケンチンすげー」
「ほらよ」
「ありがと…」
「おう。どういたしまして」
ついさっきまで欲しがっていたキーホルダーを両手で受け取ると、龍宮寺くんは目元を緩めた。
「あ!お金…来月お小遣い入ってからでも大丈夫?」
「いいって別に。俺が勝手に取っただけだし、やる」
いやそんな取ってもらったうえにお金までもらう訳には…となんとかお金を受け取ってもらえるように話していると、佐野くんが何か気がついたようで声を上げた。
「ケンチン!時間やばい。じゃーな、俺らこれから集会あるし」
そう告げられて壁にかかっている時計を確認した龍宮寺くんも少し目を大きく開け一驚した。
「送ってやれなくて悪ぃ。気を付けて帰れよ」
久しぶりに会ったふたりは、時間に追われ嵐のように去っていった。
少し離れたところから近寄ってきた柚葉ちゃんの顔をみるのがなんとなく気恥ずかしくて、手の中にあるもふもふを執拗に見つめることしかできなかった。
「よかったじゃん」
「う、うん…」
「スクバに付けてお揃いにしよ」
「ウン」
*
お風呂を入った後で翌日の授業の準備をしていると否が応でも目についてしまう、ピンク。
「ふふ」
鞄に新しく仲間入りしたうさぎの毛並みを整えると、そんなはずはないのだけど、微笑んでくれた気がした。