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どろり、とグラスの中で波打つ赤黒い液体。
眉を下げて唇をかんで、震える手のひらでグラスを支える。
ごくり、唾を飲み込んで、グラスに口をつけて。
鼻をかすめる生臭さに涙が浮かぶ。
思わずグラスを机の上に戻してしまった私を見て、一松さんが皮肉っぽく笑った。


「……なまえちゃんさあ」


ほんっと、甘ったれなんだねぇ。
バカにしたような、それでいて可哀想なものを見るような。
口元を歪めて、ゆらり、と私の方に近づいてくる。


「のめないの?」


くすり、と笑った一松さんが、グラスの口をなぞる。
目を逸らそうとするのに、真っ黒なそれが決して許してくれない。
あまったれ、だねえ。
口の端から、ギザギザした歯がちらりとのぞく。


「ちょっと、一松兄さんなまえちゃんいじめんのやめてよ」


お嬢様なんだからさあ。
そう笑うトド松さんだって、おかしそうに口角を上げている。


「やっぱり、無理か」
「いじめんのやめよーよー」
「虐めじゃないでしょ、しきたりなんだから」
「まあ、こんなしきたり、ルール決まってるだけで使われたことないんだけどねぇ」


んー、と顎に手を当てたおそ松さんが、ゆっくりと私の目の前にしゃがみこむ。
同じくらいの高さに顔を近づけて、おそ松さんが小さく笑う。


「んじゃ、妥協案なァ」


おそ松さんの言葉に、トド松さんと一松さんが仕方ないねぇと笑う。


「はい、なまえちゃん、あーん」


トド松さんの手首が、徐に唇に押し付けられる。
舐めて、と言われるがまま舌を出すと、血なまぐささが口の中に広がる。
う、と眉を寄せれば、いいこいいこと頭を撫でられて、満足げにトド松さんが笑う。


「次俺!」


はい、と目の前に差出された手首から、たらりと血が滴り落ちる。
ぐっと息を止めてそれを舐め取れば、十四松さんはくすぐってえね、と嬉しそうに笑った。


「はーいアーン」


黄色いシャツが離れていったと思ったら、思い切り口元に一松さんの腕が飛んできた。
彼だってわたしの歯に当たって痛いだろうに、心底楽しそうに笑いながら、傷口をぐいぐい押し付ける。


「なまえちゃんちゃんと舐めて」


おそるおそる舌を出してぺろりと彼の腕を舐めても、腕を離してくれない。
涙目になりながら何度か往復したところで、ふひ、と頭上から笑い声が漏れた。


「一松おまえこんなとこで盛るのやめて」


チョロ松さんが一松さんを押しのけて、無表情で腕を差し出す。
口の中がどうしようもなく鉄臭いし、不愉快な後味に涙がにじむ。
楽しそうに笑う六つの同じ顔に、これはとうぶんやめてもらえそうもないと、気が遠くなった。

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うたかた