07


ホームについてすぐ車から駆け下りて、真っ先に向かったのはもちろんシャワーだ。
松野ファミリーの浴室は広々としていて、仲のいい六つ子はよく6人で風呂に入っている。
わたしはいつも時間をずらして入らせてもらっていて、1人には随分贅沢な広さの浴室を満喫している。
何畳あるのかわからない脱衣場でドロドロのスーツを脱ぎ捨てて、足早に浴室に足を踏み入れる。
たぶん、ほかの皆さんも多かれ少なかれ返り血を浴びていたから、シャワーをしたいはずだ。
先にシャワーいただきますと一言声はかけたが、さっさと済ませてしまおうとノブをひねって、頭からお湯をかぶる。
床を流れていく赤い水を薄目で眺めて、はあとため息をついた。


「ため息ついたら幸せ逃げるんじゃない?」


背後から響いた声に肩を震わせて、思わず振り返る。
タオル1枚を腰に巻き付けた一松さんがひひ、と笑っていて、くらりと眩暈がする。
うそでしょ。


「な、なんでここに」
「ン?だって俺も血気持ち悪かったしサァ」


じっと、隠すつもりもなさそうな一松さんがわたしの胸元を見下ろして絶景絶景と満足げに笑う。
一松さんは好きで返り血浴びてるくせに!
そんなこと口に出して言えるわけもなく、ささやかな抵抗で胸元を隠すことしかできない。


「別に、いいじゃん。洗ってあげる」
「いい、いいです、本当にいいです」
「遠慮しないで」


楽しそうな一松さんが、石鹸を泡立ててわたしの肩に触れる。
色白であまり筋肉のなさそうな一松さんにも、女の力では叶うはずもなく、抵抗しても楽しげに喉を鳴らされるだけだ。


「ひひ、やわらけえ」


肌を撫でてご満悦の一松さんに、もうどうにでもなれと諦めの気持ちがわいてくる。
こういうときの一松さんほど話の通じない相手はいない。


「んー、なまえちゃんわりと……」


明らかに洗うのが目的ではない手つきで胸を鷲掴みながら、一松さんが鏡越しに目を合わせてくる。
わりと、なんだ。
続きを聴きたくなくて、ゆるく頭をふる。
ゆるゆると弄ぶような手のひらの動きに、ぴくりと肩が揺れて、恥ずかしくて仕方ない。
一松さんは、私の反応を見て、楽しげに笑っていた。


「コッチも洗ってあげる」


する、と下に伸びてきた手に、それは流石にと身をよじっても身体を押さえつけられて言うことを聞かない。
ぬるり、と、骨張った手のひら、が。


「ゃ、」
「おいたをやめろブラザー」


一松さんの腕より一回りほど太い腕が視界を遮って、肌を這っていた指先の感覚がすっと消えていく。
ズボンの裾をまくりあげて、タンクトップ1枚のカラ松さんが一松さんを引き剥がして、ごめんなと眉を下げて笑っていた。
カラ松さんは、誰も入れないようにする、とわたしに青いタオルを渡してから、恨みがましい目の一松さんを引きずって風呂場から出ていく。


「……はぁ、」


なんだかどっと疲れが押し寄せて、青いタオルに顔を埋める。
カラ松さんの香水の香りが、そっと鼻をかすめていった。

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うたかた