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ターゲット監視3ヶ月がたち、そろそろ身も心も限界だ。
おそ松さんたちのセクハラはもう慣れたけれど、知らない人からの下心のある接触が気持ち悪くて仕方ないし。
眉をしかめて、打開策を考えなければと小さく唸る。
「どうしようか、なぁ」
思ったより情けない声が漏れて、ため息が重い。
昨日送られてきたおそ松さんたちの集合写真をぼんやり見つめて、そっとまつげを伏せる。
逃げようと思えば逃げられるはずだ。
それなのに、そんな気は全くなくて、それどころか彼らの元に帰りたいと強く願っている。
最初はあのアジトが牢獄のようで、寝ても覚めても地獄だと思っていたというのに。
人間とはかくも不思議なものだなあと自分のことながら思う。
「ぁっ」
携帯の通知が震えて、慌ててスワイプすると、ターゲットからの連絡だった。
少しばかり残念に思いながらもスクロールしていくと、待ちに待ったお誘いが目に飛び込む。
「や、やっとだ」
事態がようやく動き出したことに泣きそうになる。
このまま畳み掛けてはやくホームに帰ろう。
すぐさま快諾の返事をして、いつもより念入りにお洒落をしていこうと立ち上がる。
「っ、ふふ」
思わず笑みがこぼれて、口元を手のひらで覆う。
何度、さっさと殺してしまえたら楽なのにと物騒な考えが頭をよぎっただろう。
いつもよりしっかりと化粧を施しながら、唇からメロディが零れていく。
いつだったか、母親が教えてくれたものだ。
外国の歌らしく、歌詞の意味はよくわからないけれど。
「ふふ」
すっと赤いリップを差して、鏡の中の自分がにっこり笑う。
黒い色気のあるワンピース、真っ赤な唇、青い指輪。
カバンに滑り込ませた緑のハンカチ、大胆に開いた胸元に揺れる紫のネックレス。
携帯で跳ねる黄色のストラップに耳元で上品に光るピンクのピアス。
スカートの裾を翻して、鏡の前で一回転。
真っ赤な唇が、にい、と弧を描く。
タイミングを見計らったかのように軽やかに鳴る電話をタップして、クスクス笑う。
「ターゲット動きました」
『わは、まじ?ついに!』
上機嫌なおそ松さんのカラカラした笑い声が響く。
『準備は?』
「もうすっかり待ちくたびれました」
『はは、いいねなまえちゃん』
おそ松さんの背後から響く声はあとの5人の笑い声だろうか。
待ちに待ったこの瞬間。
くふりと笑みが漏れる。
『自己犠牲はなし。なまえちゃんを最優先で、ターゲットから情報を聞き出す。ね、なまえちゃん』
「了解です」
『ん、いい返事!そんじゃま、いっちょ暴れちゃって!』
「では、いってきます」
『あ、待った待った!』
「はい」
電話越しにちゅ、とリップ音が響いて、おそ松さんがにしし、と声をあげる。
『なまえちゃん、早く帰ってきて』
「……はい」
こくりと深く頷いて、唇を撫でる。
通話が終了した画面をしばらく見つめて、気合を入れるように深呼吸。
もしもの時のための相棒をひっそりとバッグに忍ばせて、高いヒールのパンプスに足を通す。
ただの貧しい町娘が、よくもまあここまで、と我ながら思う。
それでも、わたしは。
傍若無人でデリカシーもないしセクハラ魔で腹の底では何を考えているかわからない、そんな彼らのことを、憎からず思っている。
それどころか、言うなれば、好き、なのだ。
玄関に立てかけたフレームの中で笑う6人と、真ん中でまゆを下げる自分を見下ろして、ふふ、と笑みが零れる。
どうしようもない人たち、どうしようもない世界に住む人たち。
「すき、ですよ」
本人達には言わないけれど。
写真に唇を寄せて、いってきます、とひとりごちた。
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