19
脱衣場で着替えを済ませて、扉を開けると、壁に背中を預けたチョロ松さんとばっちり目が合う。
「ちゃんと乾かしなよって言ってるじゃん。風邪ひくよ」
「す、すいません」
一松さんが上がってきたら気まずいし、と慌てて出てきたところを指摘されて、うっと肩をすくめる。
はぁ、と小さくため息をついたチョロ松さんは、私の肩にかかったタオルを手に取って、柔らかく髪を撫でる。
「なまえちゃんが風邪ひいたら困るんだよ」
わしわしと髪を拭いてくれる手つきは優しくて、仕方ないなあっていう声は柔らかくて、思わずうとうと眠りそうになってしまう。
一応満足したらしいチョロ松さんは、タオルを私に渡して、部屋に帰ったらドライヤーしなよ、と呆れたように笑った。
「こういうとこはがさつなんだよねなまえちゃんは」
「す、すいません」
「……まあいいけど…。ちゃんとご飯食べてた?痩せたんじゃないの?」
そっと、壊れ物に触れるように伸ばされた手のひらが、すり、と私の肩を撫でる。
まつ毛が頬に影を作って、チョロ松さんの薄い唇が何か紡ごうと小さく開く。
「………………なまえちゃん、ごめんね」
「……え?」
「………………なんでもないよ」
ぽつりと落とされた言葉は、謝罪だったけれど。
それがなんの意味を指すのか聞き返す前に、チョロ松さんはこの話は終わりだとばかりに微笑んでみせた。
「じゃあ、おやすみなまえちゃん」
「……はい、おやすみなさい…」
くる、とチョロ松さんが踵を返すと同時に、大きな手のひらが私の腰を掬う。
「ん、眠そうだなハニー」
「……はい、まあ、すこし」
「はは、うん、そうだな」
ゆるりと腰を抱かれたまま、長い渡り廊下を歩く。
ぽつぽつと落とされるカラ松さんの低い声が心地いい。
「ついたぞハニー。ああ、髪を乾かしてやろうな」
勝手知ったるというふうなカラ松さんは、ドライヤー片手にベッドに腰掛けて手招きをする。
ふらりとカラ松さんの脚の間に座れば、いいこだ、と頭を撫でられた。
「ハニーは髪がほんとうにきれいだなあ」
うっとりした声がポツリと落ちて、なんと返事をしていいのかわからず小さく笑って返す。
ふわふわとドライヤーの風に揺れる髪がくすぐったい。
「……ん、できたぞ」
「ありがとうございます」
暖かいし、気持ちいいし、半分夢心地のような。
ぼんやりする意識の中で、くすくすと笑い声が響いて、それから首筋に柔らかいものが触れる。
ちゅ、ちゅ、と何度か響いたリップノイズに、沈んでいた意識がふっと浮上する。
「会いたかった」
振り向けば泣きそうな顔でそんなことを言われて、顔が熱くなるのがわかる。
カラ松さんは愛情表現がストレートだからたちがわるい。
「会いたかったよ、なまえ」
「もっと君に触れてもいいだろうか」
「キスしてもいいだろうか」
ゆるゆると視線をさまよわせると、お願いだ、なんて追い打ちをかけて、ずるい。
こくりと小さく頷けば、太い腕が私を抱きしめて、そっと唇が重ねられる。
「……ん、」
何度も角度を変えて触れ合う唇に小さく吐息が漏れて、カラ松さんが優しく笑う。
「おかえり、俺達のテゾーロ」
「…………はい、ただいま、カラ松さん」
「君がいない時間は酷くつまらなくて、世界が色を失ったようで……もう二度と味わいたくない最低の時間だった」
「……熱烈ですね」
「当たり前だろう、なまえは俺のアンジェロだ」
言い過ぎではないだろうか。
いい加減、情熱的な言葉に恥ずかしくなってきた。
それを見通したように、カラ松さんは肩を竦めて本当に可愛い、と笑うものだから、顔が熱くて仕方ない。
「それじゃあ、おねむなガッティーナ、明日またその可愛い顔を俺に見せてくれよ」
ちゅ、と額にキスをひとつ落として、カラ松さんは扉の向こうに消えた。
ああ、なんか、わたし。
ホームに帰ってきてから、かわるがわる与えられるスキンシップが、なんだか嬉しくて仕方ない。
5人から受けた言葉を、暖かさを思い出して、一人くふりと思い出し笑いが漏れる。
でも、いつもならこういう事を率先してやりたがる彼がまだだ。
「なぁに笑ってんのなまえちゃんってば」
入り口から聞こえた声に、ばっと振り返れば、ニヤニヤ笑うおそ松さんがベッドに近づいてくる。
長い睫毛の下でゆれる赤に、そっと微笑んで、ゆるりと首を振った。
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