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「あー、もうすげーなまえちゃん不足だった」


拗ねたように唇を尖らせて、声はあどけない少年のような調子なのに。
じっとわたしを見つめる瞳は男の人のそれで、会いたかった、と零れた声は艶っぽい。
こくん、と頷けば、おそ松さんは満足そうに笑った。


「キスして?」


こてん、と小首をかしげて、そうっと目を瞑る。
拒否なんてできないし、するつもりもない。
ちゅ、と音を立てて唇を重ねると、ぐっと抱き寄せられた。


「口開けて」
「……んっ」


静まり返った部屋に響くのは唇から漏れる吐息と小さな水音で、うっすら目を開いておそ松さんを伺うと、長い睫毛の下で赤がキラキラ光る。


「……なまえちゃんのエッチ、おれのキス顔見られちゃった」
「おそ松さんだって目開けてましたよね」


くすくす笑うおそ松さんにこちらも薄く笑いながら返せば、からかうように眉を上げられた。


「はぁー、おちつく」


私を抱きしめて、肩に顔をうずめて。
ゆったりと呼吸を繰り返すおそ松さんはふるふると首を振る。


「なまえちゃんさぁ、ごめんね……」
「……」


ぽつりと落とされたのは、謝罪。
さっきも他の人から聞いたなあなんてぼんやり思いながら、何も言ってはいけない気がして口を噤む。


「危ない目に合わせたいわけじゃねえの。大切だよ、本当に大切。ドロドロに甘やかして縛ってしまっておれ以外見えないようにしたいよ」
「……でもさあ、それはダメだよねえ」
「…………ね、すきだよなまえちゃん」


どうしてそんなに泣きそうな顔をするんだろう。
長い睫毛の下で赤がゆらゆらと揺れて、形のいい眉が情けなく下がる。


「……わたしも、すきですよ、おそまつさん」


ぽつりと零れた答えは、間違っていなかっただろうか。


「……ほんと?へへ、ありがとー、照れるわ」


さっきまでの表情がウソのように明るく笑うおそ松さんにほっとため息をついて、もう1度すきです、と返す。


「……ん、ありがと、なまえちゃん」


すり、と首筋に頭を擦り寄せてくるおそ松さんは、なんだかいつもより子どもっぽい。
柔らかくて細い髪が首筋を撫でて、くすぐったさに身をよじる。


「はー、なまえちゃん俺のお嫁さんになってよ?」
「……またそんな冗談、…」


やめてください、と笑おうとして、思いのほか真剣そのものな赤い瞳が向けられる。
ぱちくりと何度か瞬きをして、逸らそうとしても身体がいうことを聞かない。
言葉の調子はいつもと同じおふざけなのに。


「……お、そまつさ」
「ン〜?抜け駆けは処罰の対象だったろう、おそ松?」
「何回目?いい加減制裁ものだよ」


わたしの目をふさぐように大きな手のひらが視界を遮って、おそ松さんの大きなため息が響く。


「邪魔すんなよ童貞」
「いやおそ松さんもでしょ……。なに?嫁とか聞こえたんですケド」
「あはは!おそ松さん野球する?兄さんがボール!ね!」
「十四松兄さんそれいいねー。おそ松さん、遊んでもらいなよ」
「お前らが怒ってるのはわかった」


カラ松さんがわたしの腰を抱き寄せるようにベッドから遠ざけて、おそ松さんは参りましたと両手をあげる。


「でもさあ?俺のお嫁さんになったら実質ファミリーのドンの女じゃん?どうよ?」
「……なまえちゃんに命令とかされるってこと?クソ興奮する。踏んでほしいかも」
「やめて一松。僕にはそんな趣味はないから」
「なまえちゃん優しいからそんなこと出来ないと思うよ!」
「まあそうだね。出来ないししないだろうね」
「…………………………寝取りもありだな……」
「カラ松!お前聞こえてるからね!お前が一番こえーんだよ!」


一気に賑やかになった室内に、くすりと笑みがこぼれる。
六人の応酬にくすくす笑う私をみて、照れ臭そうに笑う彼らを見て、ここにいて良かったと、やっぱりそう思うのだ。
あの時の私の選択は間違っていなかったのね。

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うたかた